溺愛婚姻譚〜交際ゼロ日ですが、一途な御曹司と結婚します〜
「下の名前で呼ぶよりもショッキングなことがあったばかりなので」
出会って即プロポーズされるような事態に比べたら大した要求ではない。
博人は「確かに」と言って笑った。
「逆に聞きますが、博人さんは普段から女性を下の名前で呼び捨てにするんですか?」
美華の質問に博人が考え込むように首をかしげる。
「いや、それはない」
「だけど、サラッとごく自然でした」
呼び慣れている感じといえばいいのか。躊躇いすらなかった印象だ。
「サラッとごく自然に美華って出てきた」
美華の言葉を使って無邪気に笑う。ちょうど信号待ちで止まり、その笑顔を向けられた美華の鼓動は大きく跳ねた。
「今さら呼び捨てはダメって言っても無駄だぞ」
「そ、そんなこと言いません」
パッと視線を外し、前を向く。なぜか頬が火照って仕方がない。
(やだな、突然意識するなんてどうかしてる)
横顔に博人の視線を感じて居心地が悪い。早く発進してと願うばかりだった。