溺愛婚姻譚〜交際ゼロ日ですが、一途な御曹司と結婚します〜
その力強さに一瞬だけ心まで掴まれたような感覚がして気が気じゃない。
出会って、たったの数時間。急速に近づくことに戸惑う。
そのくせ、その手のぬくもりにホッとさせられる部分もある。初対面なのに不思議だ。
警戒と心地よさの境界線を行ったり来たりしながら、草履を鳴らして手を引かれる。
ゆっくりとした歩調なのは、美華に合わせているのだろうか。〝大丈夫か?〟といちいち確認しなくても、美華を気遣っているのはなんとなく感じた。
「ここ、たまに足を運んでいるんです」
「そうなのか。職業柄ってやつだな」
「ですね。想像が掻き立てられる場でもあります」
美華がそう言ったとたん、博人が足を止めてパチンと指を鳴らす。
「ほら、それ」
呆気にとられる美華に博人が続ける。
「美華との出会いにも、そのインスピレーションを感じたんだ」
「そう、ですか」