溺愛婚姻譚〜交際ゼロ日ですが、一途な御曹司と結婚します〜
あまりにも展開が速すぎて、心も頭もついていけない。
昨日は午後をめいっぱい使って博人の人となりを見せられたが……。
ふと唇にキスの感触が蘇り、鼓動がトクンと揺れる。
実は美華にとって初めてのキスだったのだ。
仲のいい友達にすら未経験だと話したことはない。
美華は、高校までどちらかというと地味なタイプで過ごしてきた。大学でイメチェンを試みたもの、失策だったのか男性から声がかからないという不測の事態に見舞われた。
それでもいつかきっと……と期待も空しく四年はあっという間に過ぎ、卒業後は絵本の原作家として家に引きこもってきたため出会いは皆無。高校までの地味な自分にあっという間に戻った。
そうしてキスの経験すらないまま、昨日を迎えたのだ。
熱がとっくに消えた唇に指先で触れると、自分でも説明のつかない気分に包まれた。
(……って、ゆったり感傷に浸っている場合じゃないんだ)
昼過ぎにはこの家に、彼がやって来る。
美華の両親への結婚に向けての挨拶をしに。
信じられない状況に目眩を感じながら身体を起こし、パジャマから着替えた。