溺愛婚姻譚〜交際ゼロ日ですが、一途な御曹司と結婚します〜
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荷物の準備ができたのは、母親の弥生から「ご飯よー」と声がかかったときだった。
荷物といっても完全なる引っ越しというものではなく、当面の間使うものだけをキャリーバッグと大きな手提げバッグに詰めただけ。
足りないものは、またいつでも取りに戻れるだろう。
両親との最後の食事という割にはしんみりするわけでもなく、妹の由宇も急きょ交えて和やかムードだった。
由宇には繰り返し『おねえちゃんがこんなに大胆な人だったなんて』と言われたが、その原因を作ったのは紛れもなく彼女だ。
由宇が二十五歳の若さで結婚しなければ、きっと今頃のんきにパソコンに向かって原稿を書いていただろう。
人間とは、なにが影響して歩む道が変わるかわからないものらしい。
その夜、博人が自宅に迎えに来たのは八時を回った頃だった。
弥生から『めちゃくちゃイケメンなのよー』と聞いていた由宇は、実物を前にしてフリーズ。予想をはるかに超えていたようだ。
そんな放心状態の彼女と両親に見送られ、いよいよ博人の住む自宅へ車が出発した。