溺愛婚姻譚〜交際ゼロ日ですが、一途な御曹司と結婚します〜
お世辞もいいところだ。俯いた美華の頬を両手で包み込み、博人が顔を自分へ向かせる。
目と鼻の先に彼の顔があり、あまりの近さに焦点が合わない。頼りなくゆらゆらと視線を泳がせていると、博人は一気にその距離を縮めた。
ふにゃっという感触を唇に覚える。キスをされたのだ。
「おはよう」
美華の戸惑いも素知らぬケロッとした表情でにっこりと笑う。
結婚を決めるのも同居を始めるのも、それからキスを仕掛けるのも、なにからなにまでハイスピードでついていくのが大変だ。実際に置いてきぼりをされてばかりいる。
今だってキスをしたかと思えば、博人の興味は次へ移っているのだから。
「いい匂いだな」
鼻をクンクンさせ、鍋の蓋を開ける。
「お。わかめと豆腐の味噌汁だ。俺の好物がわかるなんて、さすが美華」
たまたまあったものを使っただけにすぎないが、喜ばれて嫌な気分はしない。