溺愛婚姻譚〜交際ゼロ日ですが、一途な御曹司と結婚します〜
最適な相手
株式会社ビルドポートは、東京湾を見下ろす超高層ビルの中にある。オフィスや商業施設を中心とした三百メートルのメインタワーに加えて、住宅やホテルなどが入る棟もあり、広場も併設したタワービルディングだ。
完成してまだ半年。竣工当時から入居の問い合わせが数多くあり、博人の部屋もその居住スペースにある。
つまり、住まいとは目と鼻の先に会社があるのだ。
そのタワーは、社長就任以前に設計部の本部長だった頃、博人が設計したものである。
プレスリリースした当初から注目を浴び、今でも各方面から羨望の目で見られている。
博人は朝一で、父親である会長から呼び出されて会長室へやって来た。
ざっと身だしなみを整えてノックすると、秘書の三浦洋二が「おはようございます」と恭しく頭を下げる。
彼に挨拶を返し、会長である藤堂潤一郎のデスクに歩み寄った。
窓の外を眺めていた潤一郎が、博人のほうへ椅子を回転させる。
切れ長の目を鋭くさせ、デスクに両肘を突いた。
白髪のほとんどない黒髪をオールバックにした丸顔は少しの皺こそあるが、六十五歳という年齢を感じさせない。