溺愛婚姻譚〜交際ゼロ日ですが、一途な御曹司と結婚します〜
お伺いを立てるのではなく、決定事項として伝えた。
潤一郎は、博人の物心がついたころからビルドポートの社長であり、父親ではなかった。
五千人を超える社員を抱える会社のトップ。そして博人は歩むべき道を示された、その後継者。なにに対しても、好きも嫌いも言っていられなかった。
将来は潤一郎の決めた相手との結婚が待ち構えていると悟っていたため、これまでの恋愛も、そこまでのめり込めなかった気がする。
沙也加と会う約束をしていた土曜日のあの時間までは、結婚もそのまま流されてするのだろうと諦めの境地だった。
ところがあの日、美華と出会い〝これだ〟と直感めいたものを覚え、潤一郎の示した道から逸れたい気持ちがムクムクと湧いた。
これが恋愛感情に発展するのか正直わからないが、美華の飾らない性格が博人の心を大きく引き寄せたのはたしかだ。これまで身近にいた女性が取り澄ました、いわゆるお嬢様だったせいもあるのかもしれない。
無邪気な彼女となら、この先の人生が楽しいものになるのではないか。
そんな希望的観測が瞬間的に芽生え、気づいたときには美華にプロポーズをしていた。
普段から調子がいいと言われることの多い博人だが、そのときほど軽いノリはなかっただろう。頭で考えるよりも早く、心が反応したとでも言おうか。