溺愛婚姻譚〜交際ゼロ日ですが、一途な御曹司と結婚します〜
心に立つさざ波
朝食の後片付けを終えた美華は、身支度を整えて隣の商業ビルにある『マリオスター』というカフェに向かった。
暮らし始めてまだ一日。セキュリティゲートをうまく出られず、そばにある非常ボタンでコンシェルジュを呼び出すという間抜けな事態をくぐり抜け、カフェへたどり着いたときにはどっと疲れが出た。
今日は、一昨日ホテルで会い損ねた父、正隆の部下である竹下に会うことになっている。やはり自分できちんと話すべきだと考えたためだ。
それには正隆も大賛成。部下に無理を言って娘を紹介しようとしたのに、『悪い、突然男ができたから、あの話はナシ』では済ませられないのだろう。
午後から出勤するという彼に、その前に少しだけ時間をとってもらった。
店員に「いらっしゃいませ」と声をかけられ待ち合わせだと言ったものの、相変わらず顔がわからないときている。
アンティーク調の店内に視線を彷徨わせていると、窓際のテーブルでひとりの男性が立ち上がった。
「美華さん、こちらです」
竹下は美華の顔が認識できたらしい。手招きで呼び寄せる。