冷徹御曹司のお気に召すまま~旦那様は本当はいつだって若奥様を甘やかしたい~
彩実は慌てて手元にあったナフキンでドレスを拭いた。

オーガンジーの薄い布地が湿った程度だが、混乱した彩実はごしごしとドレスを拭いている。

「おい、貸せ。力を入れすぎて花が崩れてるぞ」

諒太は彩実の手からナフキンを取りあげた。

そして、濡れた部分にナフキンを優しく当てた。

「こうしておさえておけば、すぐに乾くだろう。彩実が好きなワインじゃなくてよかったな」

呆れたように肩をすくめた諒太に、彩実は「うん………」とくぐもった声で答える。

ドレスに置かれた諒太の手を意識し、顔は熱く、心臓はドキドキしている。

式のときの誓いのキスを頬ではなく唇に落とされたときも鼓動は尋常ではないほど跳ねたが、今も同じくらいドキドキしている。

諒太は左手で彩実の濡れたドレスをナフキンで抑えているのだが、右手は当然とばかりに彩実のウェストに回されている。

背後から抱きしめられるように腕を回されて、濡れたドレスなどどうでもいいほど体が熱い。

「あの……もう、大丈夫。自分でやります」

「じっとしてろ。これくらい大したことないから。じゃないと、ほら」

「ほら?」

彩実は諒太の視線を追うように、顔を上げ、前を向いた。

「何百人もの目に一斉に見られてるぞ」

「は……? や、やだっ」

彩実の目に飛び込んできたのは、広すぎる宴会場のあちこちから向けられる、諒太と彩実をからかうたくさんの瞳だった。

抱き合うように寄り添うふたり、それも彩実は顔を真っ赤にしているのだ。

政略結婚だと諒太が記者会見で言い切ったにもかかわらず、人前でイチャイチャしている新婚カップル。

おまけに美男美女だ。

誰もがふたりの仲のいい姿に目を細め、スマホで写真を撮り始めた。

「わ、どうしよう。写真なんて、困る。また週刊誌とかネットとか……」

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