冷徹御曹司のお気に召すまま~旦那様は本当はいつだって若奥様を甘やかしたい~
彩実は諒太の腕から抜け出そうともがくが、暴れた拍子に再びテーブルに体をぶつけ、食器が跳ねて大きな音が響いた。

「きゃっ」

びっくりした彩実が反射的に諒太にしがみついた途端、会場内にスマホやカメラのシャッターを切る音がうるさいくらいに鳴り響いた。

「だからじっとしてろって言っただろ」

諒太の胸に顔を埋める彩実の頭をぽんぽん叩き、諒太は苦笑いを浮かべた。

「副社長、とりあえず席に着いたほうがいいと思いますが」

ふたりの様子を後ろから見ていた三橋が、諒太の耳元に声をかけ、盛り上がっている会場に顔をしかめる。

「いや……その必要はない」

「え? でも、このままでは会場の雰囲気が鎮まりません」

棘のある言い方に、彩実は諒太の胸から顔を上げた。

「ただでさえ長い披露宴なんです。このままではタイムテーブルを見直さなければなりません。この後パンフレット用の写真撮影もありますし」

三橋は腰を低くし小声でそう言って、厳しい目を彩実に向けた。

「あと、お色直しをいくつか省きませんか? 六回ものお色直しなんて新婦様の強いご希望だと思いますが、すでに三回済ませていますし、あと一回でも十分だと思いますが」

畳みかけるように諒太の耳にささやく三橋の言葉に棘を感じるが、彩実もそれには納得だ。

諒太に強引に決められたお色直しの回数とドレス。

あと三回のお色直しが控えていて、そのたびにパンフレット用の写真撮影も控えている。

「あの、私ももうお色直しは十分だと思います。だから」

お色直しはあと一回にしましょうと彩実が続けようとしたとき、ざわめく会場の向こうから、飯島がタオルを手に駆け寄ってきた。

「大丈夫ですか? グラスが割れてケガをしていませんか?」

腰を低くし彩実に駆け寄った飯島は、彩実にケガがないことを確認すると、諒太の手からナフキンを受け取った。

< 101 / 157 >

この作品をシェア

pagetop