冷徹御曹司のお気に召すまま~旦那様は本当はいつだって若奥様を甘やかしたい~
「お怪我がなくてよかったです。すぐに駆け付けようとしたんですけど、出遅れました、すみません」

はあはあと息を吐く飯島が、頭を下げる。

「飯島、慌てすぎだ」

「そうよ飯島さん、ここはもういいから、行くわよ」

「あ、三橋さん、どうしてここに? 今日はずっと会場の外で撮影の準備が続いているはずですよね」

首をかしげる飯島に、三橋はバツが悪そうに目を逸らした。

彩実はその様子に「ん?」と首をかしげた。

飯島の言葉どおり、本来、三橋がここにいる必要はなかったのかもしれない。

それでもわざわざ高砂にまで来るとは、諒太のことがまだ気になるのだろう。

ちらりと諒太を見れば、とくに表情を変えることもなく、ふたりのやり取りを見ている。

「三橋さん?」

「ちょ、ちょっと副社長に聞きたいことがあったから来ただけよ。それにそうね、カメラマンと打ち合わせもあるし、行かなきゃ。あ……お色直しの件ですが」

三橋が思い出したように問うが、諒太が答える前に飯島がハッと彩実を振り返った。

「そうなんです、四度目のお色直しの時間です。そろそろ司会の方がアナウンスしますのでそのおつもりでいてくださいね。これまでと同じ段取りで会場の外まで誘導しますのでよろしくお願いします」

「ああ。あと三回、よろしく頼む」

彩実を席に座らせながら、諒太は笑みを浮かべた。

三橋の提案も虚しく、やはりあと三回のお色直しに変更はなさそうだと、彩実は椅子の上でがっくりと肩を落とした。

そろそろ体のあちこちが強張り、疲れているのもたしかなのだ。

「なんといってもお色直しはあと三回しかないですからね。楽しみましょう。あー、次のエメラルドグリーンのドレス、本当に綺麗なんですよね。楽しみです」

ワクワクする気持ちを隠そうともせず、飯島は三橋の背を押しながら高砂から離れた。

< 102 / 157 >

この作品をシェア

pagetop