冷徹御曹司のお気に召すまま~旦那様は本当はいつだって若奥様を甘やかしたい~
彩実は、忍が間に合うと聞いてほっとし、弾む声で笑った。

「それでは、私はあちらに控えていますので、お色直し、よろしくお願いします」

飯島が司会者と目配せをし、そっと高砂を離れた。

その姿を見送っていた彩実の耳に、司会者の「それでは、新郎新婦のお色直しのお時間となりました。新郎新婦の甘いイチャイチャぶりをお写真に収めた皆様、どうそ席にお戻りくださいませ」という声が聞こえてきた。

「な、なに、今のアナウンス。恥ずかしい」

アナウンスの内容に彩実が照れていると、司会者は続けてフランス語で同じ内容を繰り返した。

フランスの親戚たちのテーブルが、にぎやかな笑い声でどっと沸いた。

この披露宴には親戚だけでなく、彩実を子供のころからかわいがっている同じ地域のワイナリーの経営者たちを大勢招待したこともあり、諒太がフランス語のできる司会者を手配してくれたのだ。

「諒太さん、あの、私の親戚に気を遣っていただいてありがとうございます」

彩実はゆっくりと立ち上がり、飯島に言われていたとおり諒太にぎこちなく腕を絡ませながら、小さな声でお礼を言った。

三カ月という短い婚約期間でお互いを知ることは難しく、諒太から好かれている自信は今もないが、出会った当初のように威圧的に突き放されることはなくなった。

彩実が話しかければ無視せず答える、という当然のことだが、無言のまま睨まれ顔を逸らされることに比べれば、かなりの進歩だと、彩実は前向きにとらえていた。

今も司会者がフランス語で新郎新婦に温かい拍手を、と言っているのを聞いて、心が温かくなるのを感じた。

自分との結婚をまるで罰ゲームかなにかのように嫌悪していた諒太が、彩実の親戚に気を遣ってくれたことが、本当にうれしいのだ。

その心遣いを信じれば、このさき夫婦としての時間を楽しめるような気もしている。

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