冷徹御曹司のお気に召すまま~旦那様は本当はいつだって若奥様を甘やかしたい~
「え? じゃあ、姉さんは今お小遣いなしってこと? 最近会ってないけど、大丈夫なの?」

彩実がそれに気づいてぽつりとつぶやいたとき、麻実子がハッとしたように腕時計に目を向けた。

「こんなところで話し込んでいる場合じゃないわ。遅れるとまずいから急ぎましょう。晴香さんがだめなら彩実と結婚させろと言って会長が強引に取り付けたお見合いに遅れたら、先方に申し訳ないわ」

「そうだな、急ごう。まあ、どうせ先方から断られるだろうが、せめて先に行ってお待ちしよう」

「え、姉さんがだめなら私っておかしくない? おじいちゃんはどうしてそこまで白石家とのつながりを欲しがってるの? それに私に断る選択肢ってあるの?」

この場に来るまで、白石ホテルの御曹司との縁談などまとまるわけがなく、早々に断られるだろうと安易に考えていた彩実は、想定外の状況を知り青ざめた。

一度会えばそれで賢一は納得し、これ以上彩実に縁談を用意することもないだろうと思っていたのだが。

晴香に続いて彩実までが断られれば、それこそ両親も彩実も賢一の逆鱗に触れ家を追い出されるかもしれない。

賢一の娘婿だった直也も、今では麻実子と結婚し彩実という娘もいる。

賢一から見れば、遠い親戚としか言いようのないこの三人とは関係がないと言えばそれまでで、咲也がいずれ社長になれば、それこそ直也の存在は無用だ。

直也の娘である彩実など、他人も同然。

賢一の望みどおりに白石家との縁をつなぐことができなければ、彩実も如月家を追い出される可能性もある。

そう考えたとき、彩実は追い出されるならそれでいいのではないかと、ふと思った。

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