冷徹御曹司のお気に召すまま~旦那様は本当はいつだって若奥様を甘やかしたい~
リビングの大型テレビの画面には、気象予報士のお兄さんが今日も晴れるとにこやかに話しているが、彩実の心が晴れる気配はまるでない。

「仕事を続けることにして、よかった」

専業主婦になって、こんな広い家にひとりでいるのは寂しすぎる。

彩実はいずれ諒太が社長になるころには退職して、彼のサポートをするつもりでいたが、その必要はないかもしれない。

「諒太さんが欲しかったのは、如月家のバックボーンだもん。私はお役御免。それも仕方がないか」

彩実は手元のバターナイフを手に取り、軽く焼いたフランスパンにエシレバターを存分に塗り、じっくり味わって食べた。

これ以上気持ちが沈まないよう、そしてなにも考えないようにしながら、ひたすらバターを味わうが。

フランスで大勢でにぎやかに食べたときほどおいしく感じられなかった。

それでも並べた料理をすべて食べ終えた彩実は、出かける準備を始めた。

昨日の夜、彩実が大切にしているネックレスをブライズルームに忘れていると、飯島から連絡があり、今から白石ホテルに取りにいくつもりなのだ。

それは彩実がいつも身に着けている一粒ダイヤのネックレスで、彩実が大学に合格したときに、ご褒美に咲也が買ってくれた大切なネックレスだ。

なくさないように気を付けているのだが、昨日はさすがに疲れていてすっかり忘れてしまった。

彩実は着替えて準備を整えると、諒太から渡された、家のカードキーを手に家を出た。

マンションから最寄り駅まで徒歩三分。

マンションから駅まで近いのはありがたいと思いながら電車に乗り込み、白石ホテルに向かった。

ホテルに着くと、彩実はロビーのソファに腰かけ、ロビーで待っていると飯島にスマホでメッセージを送った。

日曜日の今日も結婚式と披露宴の予定がいくつか入っていて、朝から走り回っているらしい。

ロビーも披露宴の招待客らしいひとでごった返していて、それだけで飯島の忙しさを想像できる。

飯島からの返事も遅いかもしれないと思い、彩実はソファの背に体を預けた。

暖房が効いたロビーでソファに座っていると昨夜眠れなかったのも手伝い、彩実は次第に眠くなってきた。

小ぶりのカバンを胸に抱き、ぼんやりしているうちに瞼も落ちてくる。

「あー、だめだ」

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