冷徹御曹司のお気に召すまま~旦那様は本当はいつだって若奥様を甘やかしたい~
立ち尽くす彩実に、エレベーターから降りてきた女性が声をかけた。

はっと振り返ると、エレベーターの真ん前に立っていた彩実は出入りするひとたちの邪魔になっていた。

「あ、すみません」

焦った彩実は、この場には似合わない大声で謝り、急いで脇に身を寄せた。

混み合う場所でぼんやりしてしまい迷惑をかけたようだ。

そして、彩実は出入りする人々の一番最後にエレベーターに乗り込んだ。

ひとまず上階のレストランでコーヒーを飲んで落ち着こうと、小さく息を吐き出した。

「……ん?」

ふと気になり視線を上げると、扉が閉まる直前、振り返り目を丸くしている諒太と目があった。

まさかここで彩実に会うとは思わなかったのだろう。

彩実は諒太が気まずそうな表情を浮かべていたように思え、苦笑した。

三橋は披露宴の準備をしているときからことあるごとに諒太のもとにやってきては、長い付き合いであるふたりの親密さを見せつけていた。

よっぽど諒太が好きで婚約しても尚あきらめきれず、突然婚約者として現れた彩実が気に入らないのだろうが、それも結婚式が終わるまで我慢すればいいと三橋からの敵意を受け流していた。

もちろんいい気分ではないが、諒太が三橋に特別な思いを抱いているとは思えず、静観していたのだが。

それは彩実の勘違いだったようだ。

昨夜ふたりは白石ホテルで一晩を過ごしたはずだ。

そうでなければ諒太が着替えているわけがない。

三橋の諒太への単なる片思いで、諒太がその気持ちに応えければそれでいいと考えていたが。

今の並んで歩くふたりを見て、ふたりは恋人同士なのだろうと感じた。

混み合うエレベーターの隅で目を閉じ、彩実は胸にあふれる悲しさに耐えた。

そして、政略結婚なんてするものではないと、果てしなく落ち込んだ。



その後、彩実はブライダルサロンがあるフロアでエレベーターを降りた。

気持ちはどんと沈み、浮上する気配もない。

昨日忘れて帰ったネックレスを受け取って、早く帰ろうと思ったのだ。

「あ、彩実さん、わざわざすみません」

サロンに向かって歩いていると、飯島が入口の前で手を振っていた。

「今メッセージを送ったところなんですけど、ちょうどよかったです」

いつもどおりの柔らかな笑みを浮かべる飯島に、強張っていた彩実の表情もほころんでいく。

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