冷徹御曹司のお気に召すまま~旦那様は本当はいつだって若奥様を甘やかしたい~
「おはようございます。昨日わざわざご連絡いただいてすみません」

彩実は飯島のもとにかけより、頭を下げた。

「いえいえ、私のほうこそちゃんと確認しなければならなかったんですけど。さすがにあれだけの規模の披露宴を担当して平常心ではいられなかったみたいです。すみません。あ、彩実さんは体調はいかがですか? お疲れですよね」

「大丈夫です。ようやく結婚式が終わってホッとしてます。飯島さんのほうこそ、今日もお忙しそうですけど、大丈夫ですか」

「慣れてるので大丈夫ですよ。花嫁様のために動き回ると元気になるんです。あ、ネックレスですよね。今お持ちしますのでこちらで待っていていただけますか? 飲み物もお持ちしますね」

飯島に促され、彩実はサロンのロビーに置かれているソファに腰をおろした。

明るい雰囲気のロビーには見学に訪れたカップルたちも多く、みな幸せそうだ。

サロンの担当者からパンフレットを見ながら説明を受けたり、施設の見学に向かったり。

どの顔も明るく輝いている。

本来なら結婚したばかりの彩実も彼らに負けず幸せなはずなのだが、そういうものには一生縁がなさそうだと、苦笑いを浮かべた。

「あ、そうだ」

さっき飯島がメッセージを送ったと言っていたのを思い出し、彩実はカバンからスマホを取り出し確認した。

サイレントモードにしているので気づかなかったが、たしかに飯島からの【サロンでお待ちしています】というメッセージが届いていた。

そして、それ以外にも何件かのメッセージが届いているのに気づいた。

おまけに着信もあった。

それらはすべてこの数分間に届いた諒太からのものだった。

「……浮気の言い訳ならいらない」

三橋と並んで歩いていた諒太を思い出し、飯島のおかげで持ち直しかけていた心がひどく痛んだ。

思えばこれまで何度も三橋から嫌な思いをさせられてきたというのに、諒太は彩実をかばうことなくただ眺めているだけだった。

昨日螺旋階段で彩実が転げ落ちそうになったときも、三橋に注意したのは諒太ではなく忍だった。

そのときは、階段を落ちかけた恐怖と動揺でまともに考えられなかったが、今なら三橋が彩実に手を貸さずにいたのはホテルの従業員として思いやりが足りなかったと冷静に考えられる。

本来なら副社長の諒太も三橋を注意するべきだったのに、なにも言わなかった。

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