冷徹御曹司のお気に召すまま~旦那様は本当はいつだって若奥様を甘やかしたい~
思い返せば思い返すほど、彩実はどんどん落ち込んだ。

お色直しで中座するたび電話をかけるほど仕事が立て込んでいて忙しそうだったが、いつも真摯に対応し、自信に満ちていた。

その姿は白石ホテルの後継者にふさわしい威厳が感じられ、遠目からでも見惚れるほど格好良かったのだが。

「恋は盲目? 三橋さんに甘すぎるのよ……」

彩実は諒太からのメッセージを確認することなくスマホをカバンに戻した。

「お待たせしました。温かいコーヒーでよかったでしょうか?」

飯島がコーヒーを載せたトレイを手に戻ってきた。

「外は晴れているとはいっても寒いですからね。温まってください」

「忙しいのに、わざわざごめんなさい……あ」

彩実は飯島の隣に立っている、スーツ姿の男性に気づき首をかしげた。

「あ、こちらは総務部の赤坂です。昨日お忘れになったネックレスですが、ホテル内での忘れ物はすべて総務部がお預かりして、書類にサインをしていただいた後お返しすることになっているんです。お手数ですが、お願いできますか?」

彩実の目の前のテーブルに、コーヒーを置きながら、飯島が申し訳なさそうに頭を下げる。

「もちろん大丈夫ですよ。私が忘れてしまったのが悪いんですし、お手数をおかけしてすみません」

彩実は立ち上がり、飯島と、その隣の赤坂と紹介された男性に頭を下げた。

すると、トレイを胸に抱えた飯島が「重ね重ねすみません」と申し訳なさそうに言葉を続けた。

「実はこれから担当している披露宴に向かわないといけないので、ここは赤坂に任せてもよろしいでしょうか」

「あ、大丈夫です。すぐに行ってください。忙しい中ごめんなさい」

「本当にすみません。では、赤坂さんあとはよろしくお願いします」

飯島は何度も頭を下げ、彩実を気にかけながらも大急ぎでサロンを飛び出していった。

「走るなっていつも注意しているのに……あいつは」

赤坂は飯島の背中を見ながら苦笑し、改めて彩実に頭を下げたた。

「総務部の赤坂です。昨日は盛大な披露宴、お疲れ様でした」

三十代前半だろうか、ノンフレームのメガネが良く似合う落ち着いた雰囲気の男性だ。

「こちらこそお世話になりました。飯島さんには頼りっぱなしで、彼女のほうこそ今日は疲れているはずなんですけど……。忙しそうですね」

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