冷徹御曹司のお気に召すまま~旦那様は本当はいつだって若奥様を甘やかしたい~
「ご心配は不要です。飯島は副社長の奥様の担当に指名されて以来うれしくて、ずっと舞い上がっていましたから。昨日は披露宴の後、燃え尽きた灰のようにぼんやりしていました。だから今は忙しいほうが彼女にはいいんです」

飯島のことを話す赤坂の表情はとても優しくて、ふたりは普段から親しいようだと彩実は感じた。

「あ、こちらをご確認いただきまして、サインをいただけますか。それと、お忘れになったネックレスというのは、こちらで間違いありませんか?」

赤坂は手にしていたファイルから取り出した一枚の紙とペンを置き、そして、彩実が忘れて帰ったネックレスが乗せられたベルベットのトレイをその隣に並べた。

彩実はソファに再び腰をおろした。

「あ、これに間違いありません。昨日忘れたネックレスです」

心配はしていなかったが、いざ目の前にして、彩実はホッとした。

「お返しできてよかったです。飯島が何度も奥様がこれを身に着けているのを見ていたので間違いないとわかっているのですが、規則ですので、こちらに受け取りのサインをいただけますでしょうか」

赤坂の遠慮がちな声が申し訳なく、彩実は早速書類を確認し、サインをした。

まだまだ書き慣れない白石彩実という文字を、複雑な思いで見つめていると、赤坂がトレイから丁寧にネックレスを手に取った。

「私でよければおつけしましょうか?」

「え?、いえ、後で自分でつけますので、大丈夫です」

にっこりと笑った赤坂に、彩実は胸の前で手を横に振った。

「また、なくされると大変ですよ」

「そうですね……でも、やっぱり」

彩実は男性からネックレスを付けてもらうのは親密すぎるような気がして断るが、赤坂は彩実の言葉を聞き流し彼女の背後に回った。

「素敵なネックレスですね。今おつけしますからじっとしてください」

「で、でも」

顔だけでなく首元も真っ赤に染めた彩実の後ろに立った赤坂が、ネックレスを両手で持ち、彩実に体を寄せた。

「赤坂さん、あの……」

いよいよ赤坂が背後から彩実の首にネックレスをつけようとし、彩実はきゅっと目を閉じて肩をすくめた。

そのとき。

「妻が面倒をかけたな」

彩実の頭上に、突然諒太の声が聞こえた。

慌てて目を開いて振り向くと、諒太が赤坂の手からネックレスを取りあげていた。

「おはようございます。副社長」

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