冷徹御曹司のお気に召すまま~旦那様は本当はいつだって若奥様を甘やかしたい~
赤坂が諒太に軽く頭を下げる。

諒太が突然現れても平然としている赤坂の様子に、彩実は違和感を覚えた。

「飯島から連絡がありましたか? お帰りになる前に間に合ってよかったです。それにしても、奥様が大切にされているネックレスをお返しできてなによりです」

赤坂は彩実と諒太を交互に見ながら目を細めた。

飯島の名前が出たが、彼女が諒太に彩実がここにいると伝えたのだろうか。

「諒太さん、わざわざここに来るほどのなにか大切な用事でもあったんですか?」

「は?」

彩実の問いに、諒太は眉を寄せた。

彩実といるときの諒太はいつも機嫌が悪く、その理由も、普段なにを考えているのかもよくわからない。

今もわざわざここに諒太が来る理由が思い浮かばない。

きょとんとしたまま諒太を見つめる彩実に、赤坂がくすくす笑い始めた。

「奥様、副社長も来られたことですし、そろそろ私も仕事に戻らせていただきますね」

「え、あ、お忙しいのにありがとうございました。私も失礼させていただきますのでどうぞお仕事に戻ってください」

彩実は慌てて立ち上がり、深々と頭を下げた。

「……では、失礼させていただきます。あ、副社長、そのネックレスは奥様がなによりも大切にされているものらしいので、子どもじみた感情でくれぐれも取りあげたりしないようにお願いしますよ」

赤坂は含みのある言い方で諒太にそう言うと、顔をしかめた諒太を気にすることなくテーブルの上の書類やトレイを手に取り、サロンをあとにした。

「行くぞ」

「え?」

諒太は赤坂を見送っていた彩実の手を掴んで立たせると、ふたりの様子を遠巻きに眺めていた従業員や客の間を抜けて、サロンを出た。

「あの、どこに行くんですか? それに、そのネックレス、返してください。大切なものなんです」

諒太は彩実の手を掴んだままずんずんと歩き、誰もいないフロア最奥の角を曲がった。

そこにはエレベーターの扉があり、諒太が壁際にあるボタンの数字をいくつか押すと、すーっと開いた。

「乗れ」

一連の流れに驚く彩実を放り込むようにエレベーターに乗せると、続いて諒太も乗り込んできた。

「あの、どこに行くんですか。ネックレスも早く返して……」

「うるさい。そんなにこのネックレスが大切ならちゃんとしまっておけ」

頭ごなしに怒鳴る諒太に、彩実はムッとし黙り込んだ。

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