冷徹御曹司のお気に召すまま~旦那様は本当はいつだって若奥様を甘やかしたい~
直也が社長の職を解任されたとしても、麻実子とふたりで暮らしていけるだけのたくわえはあるだろうし、いずれはこれまで何度も訪ねたことのあるフランスの麻実子の親戚が経営しているワイン農園を手伝いたいと、ふたりはことあるごとに口にしている。
ふたりはきっと、面倒なしがらみからとっとと逃げ出してフランスでの新しい生活を始めるに違いない。
彩実だってそうだ。
選択肢のひとつとして両親とともにフランスに行くというのもありだが、今なら建築士の資格を生かして転職するというのもいいかもしれない。
これがまだ未成年の学生のころなら別だが、どういう結論を出したとしても、今ならどうとでもなるのだ。
「彩実ちゃん、急ぎましょう」
水色のレース地のワンピース姿の麻実子が、振り返りながら彩実を手招く。
「ちょっと待ってよ。草履って歩きづらいのよ……」
彩実は着慣れない着物の裾が乱れないよう極力気を付けながら直也と麻実子についてエレベーターに乗り込んだ。
見合いの席として指定されたのは、高級レストランが並ぶ最上階の中でもとくに有名な日本料理店だ。
エレベーターの階数表示を見ながら、彩実は気持ちを落ち着かせるように深呼吸をする。
賢一からお見合いを強制されたときはただただ面倒で、そして相手があの白石家の御曹司で、且つ必ず縁をつなぐよう厳命されたときには二の足を踏み、躊躇したが。
彩実の心の一部は、この見合いを喜び、白石諒太に会えるのを楽しみにしていた。
彩実にとって、白石諒太は別世界に住む手の届かない男性であり、そして……。
そのとき、エレベーターが最上階に着き、静かに止まった。
彩実たちは緊張しながら目の前の高級感溢れる店に向かって歩を進めた。
淡いベージュの着物姿の仲居が玄関に立ち、三人を待っていた。
ふたりはきっと、面倒なしがらみからとっとと逃げ出してフランスでの新しい生活を始めるに違いない。
彩実だってそうだ。
選択肢のひとつとして両親とともにフランスに行くというのもありだが、今なら建築士の資格を生かして転職するというのもいいかもしれない。
これがまだ未成年の学生のころなら別だが、どういう結論を出したとしても、今ならどうとでもなるのだ。
「彩実ちゃん、急ぎましょう」
水色のレース地のワンピース姿の麻実子が、振り返りながら彩実を手招く。
「ちょっと待ってよ。草履って歩きづらいのよ……」
彩実は着慣れない着物の裾が乱れないよう極力気を付けながら直也と麻実子についてエレベーターに乗り込んだ。
見合いの席として指定されたのは、高級レストランが並ぶ最上階の中でもとくに有名な日本料理店だ。
エレベーターの階数表示を見ながら、彩実は気持ちを落ち着かせるように深呼吸をする。
賢一からお見合いを強制されたときはただただ面倒で、そして相手があの白石家の御曹司で、且つ必ず縁をつなぐよう厳命されたときには二の足を踏み、躊躇したが。
彩実の心の一部は、この見合いを喜び、白石諒太に会えるのを楽しみにしていた。
彩実にとって、白石諒太は別世界に住む手の届かない男性であり、そして……。
そのとき、エレベーターが最上階に着き、静かに止まった。
彩実たちは緊張しながら目の前の高級感溢れる店に向かって歩を進めた。
淡いベージュの着物姿の仲居が玄関に立ち、三人を待っていた。