冷徹御曹司のお気に召すまま~旦那様は本当はいつだって若奥様を甘やかしたい~
突然腕を引っ張られてバランスを崩した彩実は、そのままソファの背を越え、大きく倒れこんだ。

「あ、あ、あの……」

気付けばソファに仰向けに転がり、ベージュの天井と、彩実の顔を覗き込む諒太の不機嫌な顔が目の前にあった。

「ち、ちが……ただこれを……返してもらおうと……」

眉をひそめる諒太にびくびくしながら、彩実は言い訳するが、諒太は彩実の手からネックレスを乱暴に取り返した。

「あ、私の……」

気落ちする彩実を無視し、諒太はスマホに向かって話を続けた。

「いや、なんでもない。妻が俺を脅かそうとして転んだみたいだ。……ああ、大丈夫。俺が仕事で一晩家を空けたくらいで拗ねるような女じゃない。まあ、たまたまそれは結婚式の日だったけどな……。わかってる。ああ、なにかあれば連絡してくれ。じゃあ」

諒太は落ち着いた声でそう言って通話を終えると、スマホをテーブルの上に置いた。

眉間のしわが深く、やはり怒らせたと彩実はたじろいだ。

けれど、それよりも気になることがあった。

「あの、仕事で一晩家を空けたって昨夜のことですか?」

諒太に掴まれた手も気になるが、今はそれどころではない。

彩実は勢い込んで尋ねた。

「結婚式の日ということは、やっぱり昨夜ですよね」

立て続けに質問する彩実に、諒太は煩わしそうに「ああ」と答えた。

「昨夜、あれから仕事をしていたんですか?」

「あ?」

まさかあり得ないとばかりにかぶりを振る彩実に、諒太は顔をしかめた。

「クリスマスと年末年始が近いこの忙しい時期に結婚式の準備やらでずっと時間を取られていたんだ。おまけに披露宴には世界的に有名なマリュス家の面々が大挙してやってきたんだぞ。その警備の段取りやマスコミからの取材申し込みの対応なんていうのが増えて。ただでさえ仕事が山積みだっていうのに、仕事以外になにをするっていうんだ」

「えっと……浮気?」

「はあ? 俺がそんなことをするわけないだろう」

彩実の言葉がよっぽど予想外すぎたのか、諒太は怒るどころか脱力し、ソファの背に勢いよく体を預けた。

「俺は、たとえ望んだ結婚じゃなくても裏切るつもりはない」

心外だとばかりに大きく息を吐き出した諒太に、彩実は傷ついた表情を浮かべた。

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