冷徹御曹司のお気に召すまま~旦那様は本当はいつだって若奥様を甘やかしたい~
わかっていたが、彩実との結婚を望んでいなかったとはっきりと言われ、なにも聞かなかったかのように平気でいられるわけがない。

彩実は諒太に掴まれていた手が離れて自由になると、力なく起きあがった。

「それに」

諒太はソファの上で背を向け膝を抱えた彩実に顔を向けた。

「それに……俺は、誰かが大切にしているものを奪ったりもしない。これだって」

諒太はそこでいったん言葉を区切ると、テーブルの上に置いた彩実のネックレスを再び手に取った。

「このネックレスも、小関の御曹司が晴香さんのために用意したのが気に入らなくて横取りしたって聞いてるぞ」

「……え、なんですか、それ」

言葉の意味が分からず、彩実は体ごと振り返った。

「姉さんのためにって、どういうことですか? これは……このネックレスは」

彩実は膝立ちで諒太に詰め寄り、顔を近づけた。

「このネックレスは小関の御曹司からもらった……というより取りあげたんじゃないのか? 君を通じて仲良くなった小関の御曹司から誕生日にプレゼントしてもらう予定だったのに、それを知った君が拗ねて取りあげたと晴香さんから聞いている。それがこのネックレスだろう? 違う
のか?」

諒太は静かな声音で彩実に問いかけた。
その瞳はまっすぐ彩実に向けられ、彩実の反応を見逃すまいとしているように見える。

「……違います。ぜんっぜん違う」

彩実は両手をぐっと握りしめ、感情を抑えた声で答えた。

晴香はどれだけの嘘を諒太に言ったんだと、怒りで体が震える。

咲也からプレゼントされたとき、自分もほしいと拗ねて咲也に無理矢理買わせたのは晴香だ。

それなのに、よりにもよって忍の名前まで出してまで嘘をついた晴香が信じられない。

「じっとしてろ。御曹司からのプレゼントがそれほど大切なら、返してやる」

諒太はそう言って、彩実の首にネックレスを付けた。

「旦那以外の男からもらったネックレスを、よくもそれだけ大切にできるな。それって体の関係はまだないかもしれないが、立派な浮気じゃないのか? 俺を疑う前に自分がちゃんとするべきだろう」

彩実にネックレスを返した諒太は、彩実の両肩に手を置いた。

「御曹司も本当は君のことが好きなんじゃないのか? 階段から落ちかけた君を必死で助けるし、桜子に食って掛かるし。あの後、彼女の機嫌を取るのが大変だったんだぞ」

「……桜子って呼んだ」

「ん?」

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