冷徹御曹司のお気に召すまま~旦那様は本当はいつだって若奥様を甘やかしたい~
彩実の感情を押し殺した低い声に、諒太は眉をひそめた。
「諒太さんだって……私のことは君とかお前って言うのに、三橋さんのことは桜子ってたまに言ってる。それに、彼女が私にきつく当たってもかばってくれないし、さっきだって、三橋さんと仲良く降りて来たし、昨日と違うスーツを着てるし。昨夜もここにふたりで泊まったんじゃないですか? それって、立派な浮気じゃないんですか?」
「そんなことするわけないだろう。桜子は単なる同僚だ。さっきは取引先との打ち合わせで出るっていうから社用車で送っていくところだったんだ。結局、俺は飯島から君が来てると連絡をもらってホテルに戻ったから、今江が彼女を送っていったはずだ」
「あ、そう、なんだ……」
心外だとばかりに首を振る諒太の言葉に嘘はないようで、彩実は口ごもった。
「それにこの部屋には着替えも十分に用意してあるからスーツが変わるのも当然だ」
「なるほど……」
彩実は自分の勘違いに恥ずかしくなり、気まずげにうつむいた。
その一方で、三橋とはなにもないと聞かされて思っていた以上にホッとした。
「だ、だけど、私も浮気なんてしないし。忍君とは長い付き合いだけど、大学時代からの単なる先輩で、そりゃあ、尊敬してるし好きだけど」
彩実はこれまで諒太から忍のことを誤解され責められ続けてきた反動からか、いら立ちを抑えきれず、言葉も次第に荒くなっていく。
たしかに政略結婚するなら忍がいいと諒太に言ったことはあるが、晴香の嘘に騙されて彩実だけでなく忍を傷つけるようなことを言われるのは許せない。
「私だって、望まない結婚だとしても、諒太さんを裏切るようなことは絶対にしない。それほど姉さんのいうことばかり信じるなら、ずっとだまされていたらいい。私にはもう関係ない」
きっぱりそう言った彩実は、興奮して泣きそうになるのをこらえ、ソファから飛び降りた。
もう、諒太とはどうなってもいいとやけになった彩実は、さっさと家に帰ろうとソファの端に置いていたカバンを勢いよく掴んだが、慌てたせいでカバンの中からスマホが転がり落ちた。
あっと振り返った瞬間、スマホが軽やかなメロディーを奏で、画面に「小関忍」という文字が表示された。
「あ……」
スマホを取ろうと伸ばした彩実の手が、止まった。
「御曹司から電話だぞ」
「諒太さんだって……私のことは君とかお前って言うのに、三橋さんのことは桜子ってたまに言ってる。それに、彼女が私にきつく当たってもかばってくれないし、さっきだって、三橋さんと仲良く降りて来たし、昨日と違うスーツを着てるし。昨夜もここにふたりで泊まったんじゃないですか? それって、立派な浮気じゃないんですか?」
「そんなことするわけないだろう。桜子は単なる同僚だ。さっきは取引先との打ち合わせで出るっていうから社用車で送っていくところだったんだ。結局、俺は飯島から君が来てると連絡をもらってホテルに戻ったから、今江が彼女を送っていったはずだ」
「あ、そう、なんだ……」
心外だとばかりに首を振る諒太の言葉に嘘はないようで、彩実は口ごもった。
「それにこの部屋には着替えも十分に用意してあるからスーツが変わるのも当然だ」
「なるほど……」
彩実は自分の勘違いに恥ずかしくなり、気まずげにうつむいた。
その一方で、三橋とはなにもないと聞かされて思っていた以上にホッとした。
「だ、だけど、私も浮気なんてしないし。忍君とは長い付き合いだけど、大学時代からの単なる先輩で、そりゃあ、尊敬してるし好きだけど」
彩実はこれまで諒太から忍のことを誤解され責められ続けてきた反動からか、いら立ちを抑えきれず、言葉も次第に荒くなっていく。
たしかに政略結婚するなら忍がいいと諒太に言ったことはあるが、晴香の嘘に騙されて彩実だけでなく忍を傷つけるようなことを言われるのは許せない。
「私だって、望まない結婚だとしても、諒太さんを裏切るようなことは絶対にしない。それほど姉さんのいうことばかり信じるなら、ずっとだまされていたらいい。私にはもう関係ない」
きっぱりそう言った彩実は、興奮して泣きそうになるのをこらえ、ソファから飛び降りた。
もう、諒太とはどうなってもいいとやけになった彩実は、さっさと家に帰ろうとソファの端に置いていたカバンを勢いよく掴んだが、慌てたせいでカバンの中からスマホが転がり落ちた。
あっと振り返った瞬間、スマホが軽やかなメロディーを奏で、画面に「小関忍」という文字が表示された。
「あ……」
スマホを取ろうと伸ばした彩実の手が、止まった。
「御曹司から電話だぞ」