冷徹御曹司のお気に召すまま~旦那様は本当はいつだって若奥様を甘やかしたい~
この二年、晴香には散々嫌な目にあわされてきた。

如月家での彩実の立場が悪くなるよう賢一にあることないこと吹聴し、早く結婚させて家からも如月ハウスからも追い出すよう泣き落としたのも知っている。

ただ、彩実にはマリュス家という如月家よりも格が上の名家がついているおかげで晴香の泣き落としは失敗に終わった。

それ以外にも彩実が大切にしている物を壊されたり取りあげられたりと子供じみた嫌がらせを受けることも多かったが、それは我慢できたのだ。

晴香が恋人に裏切られたショックを乗り越え、恋人が実は如月家の女性と結婚できるなら相手が晴香でも彩実でもよかったのだという事実を受け入れられるようになれば、昔の晴香に戻ってくれると、そう信じていたからだ。

けれど、晴香の彩実への憎悪は次第に大きくなり、事実を話すことなど無理だった。

そんな中、諒太との見合いでは彩実に関する嘘八百を並べ立て、彩実が長い間親しくしている忍を巻き込み結婚するとまで。

「忍君を振り回すなんて……傷つけるなんて絶対に許さない」

彩実の震える声に、その場はしんと静まり返る。

忍はうつむき考え込み、晴香は唇をかみしめて彩実を睨んでいる。

「彩実」

晴香たちに向かい合ったソファに座っていた諒太がすっと立ち上がり、彩実の肩を抱いてソファに座らせた。

「落ち着け。忍君と晴香さんもなにか言いたいことはあるようだし」

諒太は彩実の背中を撫でながら落ち着くよう言い聞かせるが、彩実は静かにかぶりを振った。

「諒太さんにはわからない。この二年どれだけ私が悩んで苦しんで……」

彩実は二年前の出来事を思い出した。

晴香の恋人に押し倒され、スカートの中に手を入れられたときの吐きそうな思いは今も忘れられない。

けれど、あの男が彩実に浮気を知られて逆上することなど簡単に想像できたはずなのに、ひとりで片をつけようとした自分の浅はかさが招いたその出来事を、反省はしても後悔はしていない。

もしもあのとき晴香とあの男を別れさせていなければ、晴香の人生は滅茶苦茶にされていたはずなのだ。

もしもふたりが結婚していたらと想像するだけでぞっとし体が震えるほどだ。

「勝手なことばかり言わないでよ」

晴香が立ち上がり金切り声をあげた。

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