冷徹御曹司のお気に召すまま~旦那様は本当はいつだって若奥様を甘やかしたい~
「如月様でいらっしゃいますね。お待ちしておりました。白石家の皆様はすでにお部屋でお待ちですのでご案内いたします」

にこやかにそう言って頭を下げる仲居を前に、三人は顔を見合わせた。

どうせ断られるのだから、せめて失礼のないようにと考えていたというのに。

相手を待たせてしまうとはとんでもないと、慌てる。

格子の引き戸を抜け、店内に案内された三人は無言で仲居に着いていく。

そして、京の町家のように細長い板張りの廊下を抜け、最奥の一室のふすまの前で立ち止まった。

「失礼いたします。お連れ様をご案内いたしました」

「どうぞ」

廊下に膝をついた仲居が、両手でゆっくりとふすまを開いた。

まずは直也が、そして麻実子が恐縮しながら部屋に入った。

「失礼いたします。遅くなりまして申し訳ありません」

頭を下げる両親の後に続いて部屋に入った彩実も、すぐに頭を下げた。

結い上げた頭が少し重い。

「お待たせしまして、申し訳ありません」

丁寧にお辞儀をし、ゆっくりと頭を上げた彩実の目に映ったのは。

お世辞にもこの見合いを喜んでいるとは思えない、不機嫌な表情の男性だった。

高級ホテルとして知られる白石ホテルグループの御曹司であり、彩実の見合い相手である白石諒太だ。

和室中央にある一枚板の立派なテーブルの向こう側に座り、遅れて入った如月家の三人を順に眺める。

その視線の冷たさに、彩実は息をのんだ。

諒太の両隣には彼の両親が並び、諒太と違ってにこやかな表情で立ち上がると軽く頭を下げた。

ふたりに続いて諒太も渋々といった感じで立ち上がった。

百八十センチは優にありそうな長身と引き締まった体に、モダンな三つ揃えのスーツがよく似合っている。

短めの黒髪が彫りの深い顔立ちをいっそう目立たせ、絶えず浮かぶ冷淡な表情からは威圧的な空気が感じられる。

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