冷徹御曹司のお気に召すまま~旦那様は本当はいつだって若奥様を甘やかしたい~
「あ、ごめんなさい。まずはこれを聴いてみて。そして姉さんのフランス語のレベルを最終的に判断して、フランスに連れて行くかどうかを決めるのは忍君。いい?」
彩実は気持ちを切り替えるように笑みを浮かべ、ICレコーダーを晴香に見せた。
ちょうど二年ほど前、フランスに留学したいと忍から相談された彩実は、まずはフランス語をマスターしたほうがいいと考え、フランスに行ったときに親戚たちの日常会話をレコーダーに録音しておいた。
三十分ほど続くたわいもない会話だが、これが理解できれば学校の授業にもついていけるはずだと用意したものを、たまたま最近見つけたのだ。
最初は苦戦していた忍も、勉強の甲斐があって今ではすべて理解できている。
「これはかなり役に立ったな。晴香さんも聴いてみれば?」
忍の明るい声に、晴香も渋々うなずいた。
「わかった。フランス語を聴いて、なにを話しているのかを言えばいいのね」
「そう。だいたいでいいから、訳してみてほしいの」
「了解。だけど、それが終わったら、彩実と忍君が隠していること全部、ちゃんと教えなさいよ」
晴香は彩実に拒否は許さないとでもいうような凄みのある声で確認し、すっと表情を引き締めた。
「じゃあ、流すから落ち着いて聞いてね」
彩実はICレコーダーをローテーブルの上に置き、再生ボタンを押した。
すると、ノイズ交じりの声が流れ始めた。
その声は、荒々しく、言い争っているような男女の声だった。
彩実と忍が顔を見合わせ、首をかしげた。
「久しぶりに聴くから、調子が悪いのかな……」
確認しようと彩実がICレコーダーに手を伸ばしたとき、スピーカーから大きな音を立ててなにかが叩きつけられる音がしたかと思うと。
『如月家の一員になるためなら、俺はなんだってする。姉でなくお前でもいいんだ。お前のほうが若くて綺麗だしそのほうが気持ちよさそうだな。俺の子どもを孕めばもう逃げられないぞ。俺も名家如月家の一員になれるんだ。ほら、おとなしくしろよ。俺が浮気していることを晴香にいいつけようとするからこうなるんだぞ。それに、俺に惚れ切ってるあの女がお前の言うことなんて信じるわけないだろ』
静かなリビングに、どすの効いた男性の声が響いた。
男は鼻にかかった特徴的な発音と癖のある言い回しながらも、流暢なフランス語で話している。
彩実は気持ちを切り替えるように笑みを浮かべ、ICレコーダーを晴香に見せた。
ちょうど二年ほど前、フランスに留学したいと忍から相談された彩実は、まずはフランス語をマスターしたほうがいいと考え、フランスに行ったときに親戚たちの日常会話をレコーダーに録音しておいた。
三十分ほど続くたわいもない会話だが、これが理解できれば学校の授業にもついていけるはずだと用意したものを、たまたま最近見つけたのだ。
最初は苦戦していた忍も、勉強の甲斐があって今ではすべて理解できている。
「これはかなり役に立ったな。晴香さんも聴いてみれば?」
忍の明るい声に、晴香も渋々うなずいた。
「わかった。フランス語を聴いて、なにを話しているのかを言えばいいのね」
「そう。だいたいでいいから、訳してみてほしいの」
「了解。だけど、それが終わったら、彩実と忍君が隠していること全部、ちゃんと教えなさいよ」
晴香は彩実に拒否は許さないとでもいうような凄みのある声で確認し、すっと表情を引き締めた。
「じゃあ、流すから落ち着いて聞いてね」
彩実はICレコーダーをローテーブルの上に置き、再生ボタンを押した。
すると、ノイズ交じりの声が流れ始めた。
その声は、荒々しく、言い争っているような男女の声だった。
彩実と忍が顔を見合わせ、首をかしげた。
「久しぶりに聴くから、調子が悪いのかな……」
確認しようと彩実がICレコーダーに手を伸ばしたとき、スピーカーから大きな音を立ててなにかが叩きつけられる音がしたかと思うと。
『如月家の一員になるためなら、俺はなんだってする。姉でなくお前でもいいんだ。お前のほうが若くて綺麗だしそのほうが気持ちよさそうだな。俺の子どもを孕めばもう逃げられないぞ。俺も名家如月家の一員になれるんだ。ほら、おとなしくしろよ。俺が浮気していることを晴香にいいつけようとするからこうなるんだぞ。それに、俺に惚れ切ってるあの女がお前の言うことなんて信じるわけないだろ』
静かなリビングに、どすの効いた男性の声が響いた。
男は鼻にかかった特徴的な発音と癖のある言い回しながらも、流暢なフランス語で話している。