冷徹御曹司のお気に召すまま~旦那様は本当はいつだって若奥様を甘やかしたい~
そう思った途端、さらに涙があふれ出し、彩実への申し訳なさでいたたまれなくなった。

「晴香さん、さっきのフランス語、もしかして理解できたの?」

ソファに顔を埋める晴香を起こし、自分の胸に抱き寄せた忍は、諒太同様晴香もフランス語を理解できたのだと確信しながら問いかけた。

「うん……。忍君がいつかはフランスに留学したいって言ってたから、この二年、離れにこもってひたすら勉強してた。チャットで現地の人と話したりしてるうちに結構話せるようになったの。だから、フランスに連れてって」

ひくひくとしゃくりあげながら話す晴香を、忍はたまらず抱きしめた。

そのとき、ふと視界の隅にいる諒太がうずくまっていた彩実を抱き、立ち上がったのが見えた。

「玄関はオートロックだから、このまま適当に帰ってくれ」

彩実を横抱きにした諒太が、忍に声をかけた。

その苦し気な表情に、忍も胸が痛むのを感じた。

「わかりました。晴香さんを連れて帰ります。あの、彩実のこと、よろしくお願いします」

彩実が胸にしまい込んでいる事情を理解しているつもりでいたが、実際はなにもわかっていなかった。

忍は、諒太に抱かれている彩実の弱々しい姿にそれを痛感し、申し訳なさとともに頭を下げた。

「俺の妻のことで、君が頭を下げる理由はない。よく覚えていてくれ」

横抱きにしている彩実の体をさらに引き寄せ、諒太は眉をひそめた。

「あ……はい。心にしっかりと、とめておきます」

諒太は忍の言葉を背中で聞きながら、彩実とふたり、寝室に消えた。



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