冷徹御曹司のお気に召すまま~旦那様は本当はいつだって若奥様を甘やかしたい~
「ああ。ぶん殴ってやりたいくらいむかついた。それがどうしたんだ? あ、彩実もあいつを殴りたいのか? だったら白石家の力を総動員して居場所を突き止めて……」

「い、いいです。そうじゃないんです」

諒太が本気であの男を探し出して殴り倒しそうで、彩実は慌てて起き上がった。

その途端、待ち構えていたように諒太は彩実の体を抱きしめた。

「昨日も思ったけど、軽すぎないか?」

諒太は心配気な声でそう言いながら彩実を背中から抱きしめ、ヘッドボードに体を預けた。

「諒太さん……あの、これって」

背後から回された諒太の手がお腹の上で組まれ、彩実は恥ずかしさのあまりおろおろする。

結婚したからといって、すぐになにもかもをスムーズにこなせるわけではないのだ。

これまでキスどまりでそれ以上のことはなにもしていない。

彩実をとことん嫌っていた諒太とは、キスでさえこの先ないかもしれないと思っていたのだ、

ベッドの上でこうして抱きしめられても、次に進む心の準備はまだできていない。

「今すぐ彩実を孕ませるつもりはないから安心しろ」

彩実の緊張を察したのか、明るい声で諒太が笑った。

「あ……そう、ですか」

思いのほかその言葉に彩実はがっかりした。

諒太もそれに気づいたのだが、彩実の耳や首元まで真っ赤にしている姿を目の前にして、とりあえず今はこれで満足する。

「えっと、あの。ICレコーダーの件なんですけど」

彩実は諒太の明るい笑い声に後押しされ、口を開いた。

「あの男が言った言葉は、あの、最低でどうしようもなくて、私も考えが甘かったんですけど。それでも、私、平手打ちされたし……足を……」

触られたと続けようとしても、なかなか言えず、彩実は口ごもった。

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