冷徹御曹司のお気に召すまま~旦那様は本当はいつだって若奥様を甘やかしたい~
「初めまして。白石でございます。本日はわざわざ私共のホテルまでご足労いただきましてありがとうございます」

諒太の隣の男性が、にこやかに口を開いた。

国内に七か所、海外に六か所ある白石ホテルの社長である白石伸之だ。

慈善事業にも積極的で、家庭の事情で思うように進路を選べない子どもたちへの経済的な援助や、病気療養する家族をケアする施設を全国に作ったりと、マスコミに取りあげられる機会も多く、彩実もその名前と顔には記憶があった。

「まだまだ残暑が厳しいですからね、まずはゆっくりと冷たい物でも……」

諒太のもう一方の隣に立っていた女性に促され、直也は「あ、ありがとうございます。お待たせしまして、本当に、もう、すみません」と、ぺこぺこと何度も頭を下げる。

「いえ、こちらが勝手にお約束の時間より早く来ていただけですので、お気になさらないでください。なんせ、エレベーターで少し下に降りれば職場ですので。あっという間なんですよ」

ふふっとにこやかに笑う女性は諒太の母、順子だ。

濃紺のパンツスーツと白いリボンブラウスがよく似合う小柄で優し気な雰囲気の女性だ。

ホテル経営にはいっさい関わらないが、テレビの密着番組で伸之とともに慈善事情に熱心に取り組む姿が紹介され、国内有数のホテルグループの社長夫人とは思えない明るい性格と朗らかさが話題になった。

今もほぼスッピンのようだが、人をホッとさせるような大きな笑顔が魅力的で、彩実はぼんやりと見とれてしまった。

ショートカットもよく似合っていて、生き生きとしている彼女によく似合っている。

「あ、あの、こちらが娘の彩実です。そして、彩実の向こうが妻の麻実子です。本日はよろしくお願いいたします」

直也が思い出したようにうわずった声で彩実と麻実子を紹介した。

「如月彩実です。本日はよろしくお願いいたします」

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