冷徹御曹司のお気に召すまま~旦那様は本当はいつだって若奥様を甘やかしたい~
「あの、でも、それ以上のことはなにもなかったから。キスされそうになったけど必死で抵抗して。平手打ちされただけで、あとはなにも……だから」

胸の前で両手を組み、泣き出しそうになりながら話す彩実を、諒太は抱きしめた。

「わかってる。晴香さんの声が続けざまに入っていたし、なにもなかったのはわかってる」

彩実の体をあやすように揺らしながら、諒太が言い聞かせる。

真面目な表情で話す諒太を、信じたいと思うが、すぐにそれは難しい。

何度も諒太から意地の悪い言葉で責められていたのだ、彩実の言葉をすんなり受け入れるとは思えない。

「彩実?」

黙り込んだ彩実を、諒太は不安げに見つめた。

「本当にわかってる? 諒太さんは、お見合いで会ってから一度も私に優しくしてくれなかった。それに私を信じないし私が姉さんの恋人を奪ったって誤解して責めるし忍君となにかあるって……浮気してるって怒ってたから。あの男のことも私が悪いって疑ってるかもって考えたらすごく落ち込んだ。でも、フランス語だから理解できないだろうし誤解されることもないって思ってたのに。フランス語が話せるなんて。どうしようって思って」

明らかに混乱し、思いつくまま言葉を並べる彩実を、諒太は力づくで正面に向けた。

焦点が合わない瞳を揺らし唇を震わせる彩実を見て、諒太は自分がこれまで彩実にぶつけた心ない言葉を思い出し、後悔した。

「彩実、ごめん」

どうにか声を絞り出した諒太は、彩実の体をかき抱いた。

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