冷徹御曹司のお気に召すまま~旦那様は本当はいつだって若奥様を甘やかしたい~
ぽつりとつぶやいた綾香の頭を、諒太は軽くポンと叩いた。

「忘れたのか? 三年ほど前に俺たち会ってるだろう?」

「え、覚えてるんですか?」

突然三年前のことを持ち出され、彩実は目を見開き、驚きの声をあげた。

「ああ。まあ、正直に言えば見合いの話があるまでとくに思い出すことはなかったんだが。忘れたわけじゃなかった。今じゃこんなに綺麗になって、仕事もバリバリこなすいい女になってる。彩実のこの三年を見逃していたことを後悔した」

苦笑いを浮かべた諒太に、彩実は目を潤ませた。

三年前の謝恩会のときに体調を崩した彩実に付き添ってくれたのが、諒太だった。

ホテルの一室に連れて行き、広いベッドで休ませてくれた。

ドクターの診察が終わった後も、体調が回復するまで部屋で休ませてくれたうえに、大切な時計をくれた。

「再会してからなにも言ってくれないし、絶対に忘れてるって思ってた。それに、諒太さんの腕時計を見て驚いた私にひどいことばかり言うから……」

「あー、悪い。本当にごめん。小関家具の御曹司となにかあるんじゃないかと思ってイライラしてたんだ。子供じみた八つ当たりなんて、情けないよな。ごめん」

「なんだ……そっか」


忍に嫉妬するなんて、本当に子供っぽいが、それを言われていい気分にならない女性は滅多にいない。
これまでとは別人のように照れている諒太を見ながら心が温かくなった。

「忘れてなかったんですね。よかった……」

彩実にとっては初めて男性にときめいた大切な思い出だ。

諒太にもちゃんと覚えていてほしかったのだ。

当時を思い返し、頬を緩めた彩実に、諒太はなぜかうなだれている。

「忘れているのは彩実だ」

「え、なにを?」

「昨日連れて行ったホテルの俺の隠れ家。三年前、あの部屋で彩実を休ませたんだ。まったく気づいてなかっただろう」

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