冷徹御曹司のお気に召すまま~旦那様は本当はいつだって若奥様を甘やかしたい~
諒太はがっかりした声でそう言うと、大きく息を吐き出した。

「大切な小関の御曹司にもらったネックレスをわざわざホテルに取りに来てるだけでむかついてたのに、飯島に連絡をもらってサロンに行けば、赤坂が彩実の背後から抱き着こうとしてるし」

「え? 抱き着く?」

彩実はヘッドボードにもたれている諒太ににじり寄った。

「いや、近づいてみるとネックレスを首にかけてるだけだったけど。いや、それも気に入らないんだ。俺にさせろよと思った途端、我慢の限界で。思わずあの部屋に連れ込んだ。だけど、まったくあの日のことを覚えていないから、さらに逆上してしまったよな。かえすがえす申し訳ない」

その場で姿勢を正した諒太が深々と頭を下げた。


「いえ、そこまで謝らなくても大丈夫です。それに、あの部屋のことを覚えてなかった私が悪いんだし」

あの日、熱でぼんやりしていたせいか、広いベッドに寝ていたとしか記憶にない。

まさか昨日のあの部屋だったとは……。

彩実は自分の記憶力の頼りなさに、落ち込んだ。

「初めて会ったときに惹かれた気持ちを信じていれば、見合いの後すぐにでも彩実と幸せになれたのに。後悔ばかりだ」

諒太は再び彩実を抱きよせ、力強く抱きしめた。

「く、くるしい……」

あまりにも強い力で抱きしめられ、彩実は小さくせき込んだ。

それでも諒太は彩実を離そうとせず、次第にバランスを崩したふたりの体は、ずるずるとベッドに倒れこんだ。

「彩実。傷つけてばかりで悪かった」

諒太は仰向けに寝転んだ彩実の体に覆いかぶさると、彩実が逃げ出さないよう、彼女の頭の両脇に肘をついた。

「諒太さん、あの」

彩実は目の前の諒太から目が離せず、おまけになにを言えばいいのかわからない。

立て続けに思いもよらないことばかりを聞かされて、正直、なにから受け止めればいいのか、見当もつかない。

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