冷徹御曹司のお気に召すまま~旦那様は本当はいつだって若奥様を甘やかしたい~
彩実は目の前の三人に向かって深々と頭を下げた。

めったに着ない振袖のせいでお辞儀をするのも一苦労だ。

帯がお腹にぐっと入り、息苦しい。

「とりあえず、座りましょうか」

伸之の声とともに六人は腰をおろし、同時に部屋の入口の扉が開いた。

「失礼いたします」

落ち着いた女性の声が聞こえ、すぐに飲み物が運ばれてきた。

「今日はお店自慢のお料理を用意していただいたんですよ。私も滅多にここに来ないから楽しみで、朝からわくわくしているの。早速持ってきてもらっていいかしら?」

順子の弾む声に、直也は「もちろん、お願いします」と即座に答えた。

落ち着きのないその声に、彩実は直也がよっぽど緊張しているのだと苦笑した。

そのとき、視界の隅に諒太の顔をとらえた。

相変わらず表情は硬く、ぐっと唇を引き結んだままだ。

さらに冷たい印象を受け、彩実は視線を逸らした。

ひとことも言葉を発することなく厳しい表情を浮かべている諒太の威圧感に、いたたまれなくなる。

晴香との見合いの席では終始機嫌がよかったらしいのに、今の彼の様子からは、それはまったく想像できない。

彩実をとことん拒否する無言のシグナルを感じながら、彩実はこのお見合いはきっと断られると確信した。

晴香のときと同様、今晩にでも白石家から断りの連絡が入り、賢一が顔を赤くして激怒する姿が目に浮かぶ。

鬼のような形相を思い、彩実は軽く身を震わせた。

「あら、どうしたの? 気分でも悪いのかしら?」

うつむき考え込んでいた彩実に、順子が気づかわし気な声をかけた。

「あ、いえ、なんでもありません。すみません……ちょっと緊張していて」

顔を覗き込まれ、彩実はとっさに笑みを顔に貼り付けて答えた。

すると、順子は隣で黙り込んだままの諒太を責めるように睨み、口を開いた。

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