冷徹御曹司のお気に召すまま~旦那様は本当はいつだって若奥様を甘やかしたい~
「そうなのよ。私がワインに目がないって話したら色々教えてくれたし。咲也さん、ワインソムリエの資格をお持ちなのね。仕事一辺倒でなにを楽しんで生きているのかわからない諒太とはそこも大違い。本当、素敵な息子さんをお持ちで羨ましいわ。見た目もとても素敵だし、彩実さんだって自慢のお兄さんでしょう? なのに」

伸之の言葉などなかったように言葉を続ける順子に、隣の諒太はいっそう不機嫌な表情を浮かべた。

「あ、あの。兄はたしかに優しくていつも明るくて。ワインソムリエの資格もそうですけどほかにも趣味は多くて自慢の兄なんです。見た目も悪くないどころか抜群なんですけど、そ、それだったら白石さんも、えっと、諒太さんも負けてません。とても格好いいです……あ」

彩実はひと言も話さず不機嫌になっていく諒太を見かね、思わずペラペラと話したが、余計なことだったようだ。

諒太は初めて彩実にまともな視線を向けたかと思うと、ぐっと目を細め睨みつけた。

彩実はひっと息をのむ。

「ご、ごめんなさい……」

彩実は思わず謝ると、正座のまま後ずさった。

諒太がこの見合いに心底乗り気ではないのだと、実感した。

どうして自分はそこまで嫌がられるのだろう。

彩実自身、諒太と結婚したいわけではないが、ここまであからさまに拒まれると、やはり傷つく。

二十五年間生きてきた中で恋愛には一度も縁がなかったが、今はまるで失恋した気分だ。

彩実は、わざわざ振袖まで着ている自分が滑稽に思えた。

麻実子が用意した薄いピンク地にかわいらしい手毬と桜の模様の振袖に罪はないが、二度と着るものかと、膝の上に置いた手をぎゅっと握りしめた。

「彩実ちゃん……」

心配そうな麻実子の声に、彩実は無理矢理笑顔を作り、見上げた。

そして、安心させるように小さくうなずいた。

そのとき、順子がすくっと立ち上がった。

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