冷徹御曹司のお気に召すまま~旦那様は本当はいつだって若奥様を甘やかしたい~
「ばかっ。ひとを睨みつけるなんて最低よ。そんな人間がホテルの経営なんてできるわけないでしょう? お客様を幸せにしなければならないというのに、あなたは初対面の女性をそんな風に……。いいわ。反省しないのなら私は来年の株主総会で、あなたの社長就任には反対票を投じます」

順子は諒太に向かってピシッと指をさし、きっぱりと言い切った。

諒太は順子を呆れたように見上げ、面倒くさそうにため息を吐く。

「母さんの持ち分なんて、全発行済株式の一割にも満たないだろう? 母さんひとりが反対したって効果はないからあきらめろ」

「ま、なんてことを……本当にかわいくないんだから」

諒太の言葉に反論できないのか、順子は悔しそうに唇をかみしめている。

「諒太、いい加減にしておけ。順子を傷つけるのは俺が許さない。それと、順子も今言うことじゃないだろう? ほら、彩実さんだって驚いてるぞ」

申し訳なさそうな伸之の言葉に、この場にいる諒太以外の視線が彩実に向けられた。

「あ……あの、私は別に。私が格好いいなんて、つい言ってしまって怒らせたから」

彩実が両手を胸の前で振り、慌てて答えた途端、再び諒太の厳しい視線が向けられ、彩実はピクリと体を震わせた。

見た目の良さで嫌な思いでもしたのだろうか、諒太に格好いいという言葉は言わないほうがいいらしい。

彩実はここに来てから続く居心地の悪さに、どっと疲れを感じた。

どちらにしても、諒太からは嫌われているのだ。

どうせ断られるのならこのまま帰りたいと、彩実が直也に顔を向けたとき。

「失礼いたします。お食事をお持ちいたしました」

部屋の入口から仲居の声が聞こえた。

そしてゆっくりと開いたふすまの向こう側に、数人の仲居が料理が載った大きなワゴンとともに立っていた。

彩実は帰りたいと言い出すタイミングを失い、肩を落とした。

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