冷徹御曹司のお気に召すまま~旦那様は本当はいつだって若奥様を甘やかしたい~
おいしいと有名な店の料理だ、是非とも食べてみたいが、諒太からの敵意が込めれた視線に耐えながら食べてもおいしいはずもなく。

かといって料理が次々と並ぶ中帰りたいとも言い出せず。

彩実はこうなったらさっさと食べて家に帰り、これからのことをゆっくりと考えようと決めた。



けれど、彩実の願いは叶わず、食事の後順子に強引にホテル内のバーに連れて行かれ、無理矢理諒太とふたりきりにされてしまった。

ホテルの二十五階にあるバーには、彩実と諒太以外の客の姿はなかった。

十五時を過ぎたばかりで、営業時間前に無理を言って開かせたようだが、カウンターの向こうにいるバーテンダーも突然呼び出されたのだろう。

彩実は隣に座る諒太の相変わらずの不機嫌な横顔に体を小さくしながら、手元のカクテルをゆっくりと口に含んだ。

酔ってしまえば少しは気も楽になるかもしれないが、あいにくお酒に強い彩実が酔うことは滅多にない。

ふたりで飲み始めて十分ほど経つが、諒太はまるで彩実の存在などないかのようにひとりで飲み時折バーテンダーと会話するだけだ。

別のフロアのカフェでコーヒーを飲んでいる家族に合流したいと、彩実は退屈な時間をもてあましていた。

「あの、同じものをください」

会話もなく間が持たず、彩実はカクテルを飲み干し、お代わりをバーテンダーに頼んだ。

彩実が飲んでいたのは、バーテンダーおすすめの淡いピンクのカクテルだった。

少し辛めで飲みやすく、簡単に飲み干してしまった。

バーテンダーはかすかにうなずくと、人の好さそうな笑顔で口を開いた。

「白地にピンクの桜の模様がとても綺麗で目を奪われましたので、このピンクのカクテルを作らせていただきました」

「ありがとうございます。今日のために母が新しく仕立ててくれたもので、昨日届いたばかりなんです……私も気に入ってます」

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