冷徹御曹司のお気に召すまま~旦那様は本当はいつだって若奥様を甘やかしたい~
「それに、姉さんは着物が嫌いで成人式のときにも頑として振袖を拒んで着なかったんです。だから百貨店の外商さんを慌てて家に呼んで姉さんお気に入りのブランドの服を用意して、翌日の成人式に送り出したんです。それにそのとき、姉さんは大切に保管されていた彼女のお母様のお着物をすべて無断で処分したんです。おじいさまはそれに激怒して、姉さんではなく父さんを叱りつけて……。あ、まあ、そのことは今はいいんですが。とにかく、私は姉さんの着物を取りあげたことなどありませんし、この振袖は今日のお見合いのために、用意したものです」
相変わらずの視界に入れるのも嫌だと言わんばかりの諒太の視線にくじけそうになりつつも、彩実はひと息にそう言った。
何故諒太が彩実の振袖のことでそんな誤解をしているのかは、明らかだった。
きっと先日の諒太との見合いのときに、晴香が諒太の同情をひこうとして嘘をついたのだろう。
これまでにも同じようなことはあったが、まさか見合いの相手にまで。
晴香が彩実を毛嫌いする理由はわかっているが、いよいようんざりする。
ふとうつむくと、着物に金糸で施された美しい刺繍が目に入り、切なくなった。
賢一によって強引に決められた見合いだが、振袖を新調するときにはやはり心が弾み、諒太と会うことにときめきさえ感じた。
けれど、彩実のために用意されたと思っていた見合いは、晴香が拒んだ白石家との縁を、賢一がどうしても欲したせいで回ってきただけのもの。
如月家の将来、というよりも、賢一の後継者である咲也が今後もつつがなく会社を大きくしていけるようにと考えての見合いだ。
真剣に振袖を選んでいた自分を思い出し、彩実はそんな自分が哀れで胸が痛んだ。
彩実は目の奥が熱くなるのをおしやるようにバーテンダーに顔を向けた。
「すみません。バーボンダブル、ストレートでお願いします」
「……は?」
相変わらずの視界に入れるのも嫌だと言わんばかりの諒太の視線にくじけそうになりつつも、彩実はひと息にそう言った。
何故諒太が彩実の振袖のことでそんな誤解をしているのかは、明らかだった。
きっと先日の諒太との見合いのときに、晴香が諒太の同情をひこうとして嘘をついたのだろう。
これまでにも同じようなことはあったが、まさか見合いの相手にまで。
晴香が彩実を毛嫌いする理由はわかっているが、いよいようんざりする。
ふとうつむくと、着物に金糸で施された美しい刺繍が目に入り、切なくなった。
賢一によって強引に決められた見合いだが、振袖を新調するときにはやはり心が弾み、諒太と会うことにときめきさえ感じた。
けれど、彩実のために用意されたと思っていた見合いは、晴香が拒んだ白石家との縁を、賢一がどうしても欲したせいで回ってきただけのもの。
如月家の将来、というよりも、賢一の後継者である咲也が今後もつつがなく会社を大きくしていけるようにと考えての見合いだ。
真剣に振袖を選んでいた自分を思い出し、彩実はそんな自分が哀れで胸が痛んだ。
彩実は目の奥が熱くなるのをおしやるようにバーテンダーに顔を向けた。
「すみません。バーボンダブル、ストレートでお願いします」
「……は?」