冷徹御曹司のお気に召すまま~旦那様は本当はいつだって若奥様を甘やかしたい~
彩実の声に、諒太は目を見開いた。

かわいい色のカクテルを飲んでいた彩実が注文するには度数が強すぎると心配したのだろう。

「あ、心配いりません。お酒に酔うことは滅多にありませんし、幸い今日は両親も一緒ですから、送っていただくつもりもありませんから」

ちらりと諒太を見れば、振袖のことをまだ信じていないのかいぶかし気な視線を彩実に向け続けている。

晴香のことだ、自分が見合いを断れば次は彩実が駆り出されると予想して、諒太に彩実の印象が悪くなることをあれこれ言ったに違いない。

そんなウソに騙されるようではまだまだ白石ホテルの後継者としては未熟だと心配になるが、晴香の彩実への敵対心の強さを考えれば仕方がないのかもしれない。

結局、この見合いも白石家から断られるのだろう。

彩実は最後にバーボンを飲んで、さっさと帰ろうと決めた。

「……本当に、それはお姉さんから取りあげたものじゃないのか?」

諒太の声のトーンは幾分落ち着いていた。

これ以上説明をする気はない彩実は、唇を引き結び大きくうなずいた。

賢一には激怒されるだろうが、ここまで諒太から拒否されていてはどうしようもない。

彩実はスツールに座り直し、手元に置かれていたチョコレートを手に取った。

フランスで有名な店のチョコレートらしく、丸い一口サイズで表面がつやつやだ。

普段から甘い物には目がない彩実は、一粒手に取り口に入れた。

「ん……おいしい」

なんの装飾もない単純な一粒チョコだが、その味はとても上品で、丁寧に作られているとよくわかる。

彩実はそのおいしさに目を細め、もう一粒口に入れた。

すると、彩実の手元に、バーボンのグラスがすっと置かれた。

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