冷徹御曹司のお気に召すまま~旦那様は本当はいつだって若奥様を甘やかしたい~
水割りを飲んでいる諒太は、突然彩実から視線を向けられ面倒くさそうに視線を合わせる。

「なんだ? 俺と一緒にいてそんなに疲れたか?」

「い、いえ、そんなことはありません」

やっぱり聞かれていたのだと、彩実は焦った。

顔も熱く、きっと赤いに違いない。

「まあ、どれだけ疲れる相手だとしても、白石家とのつながりはほしいよな」

諒太は顔をしかめ、彩実をバカにするように笑った。

「うちのメイン事業はホテル業だけど、レストラン事業も好調だ。リゾート業にも力を入れてる如月ホテルならうちは魅力的だろう? それに俺の母方の実家は運輸業やシステム開発で名を知られた市川家だから、如月家としては是非とも仲良くしたいよな」

彩実は諒太の話を黙って聞きながら、今日会って以来、一番長く目を合わせているなとぼんやり考えていた。

ようやく目を合わせ話しかけてもらえたといっても、それは諒太がどれだけ彩実を拒んでいるのかを教えたいがため。

彩実はその現実に苦笑するよりほかない。

「如月ハウスの会長が、孫である君のお兄さんを問題なく社長の座に就けたがっているというのは有名だからな」

彩実が怒りだすのを待っているのか、諒太は挑発するように意地の悪い言葉と表情を彩実にぶつけてくる。

もしかしたら、彩実のほうからこの縁談を断るように仕向けているのかもしれない。

それはそれで構わないのだが、身勝手な野望を抱いている賢一に呆れ、彩実はなにもかもが面倒になる。

それこそもう、本当に、疲れた。

彩実は小さく息を吐き、諒太から視線を外した。

疲れているのもたしかだが、どれほど顔を歪めて冷たくされても、その整いすぎている諒太の顔は、やはり魅力的でどきどきするのだ。

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