冷徹御曹司のお気に召すまま~旦那様は本当はいつだって若奥様を甘やかしたい~
そういえば、モデルハウスに通うよりもマグカップの製作をお願いした工房に足を運ぶ頻度のほうが高く、彩実は「庄野は陶芸家に転身するのか?」と上司から何度も聞かれた。

上司からはそれだけでなく、マグカップ製作にかかる費用がかさみ、何度も別のものに切り替えろと厳しい言葉もかけられた。

たしかに予算は限られていてマグカップばかりに費用をかけられないのだが、あまりにも庄野が熱心なことと、彩実自身も小関家具とのコラボに恥ずかしくないものを作りたいと考え、どうにか上司と役員たちを説得したのだ。

「僕、小関家具の職人さんや、マグカップを作ってくれた陶芸家さんたちのように、心のこもったデザインをしていきたいんです。今回のモデルハウスでは玄関ドアと階段のデザインに携わったんですけど、その気持ちを最大限投入しました」

いつの間にかかなり力強い言葉で思いを告げている庄野を、彩実も三人の女の子たちもぽかんと見ている。

いつも冷静で感情の上下がない彼のこんな熱い姿は珍しく、圧倒された。

「あ……あ、私だって、モデルハウスのインテリアは全力投球しましたよ。もちろん先輩に教わりながらだけど。せっかくの新築物件に携われるんですからね。そりゃあ気合も入りますよ。私もオープンが楽しみです」

デザイン企画部の女の子が熱のこもった言葉を口にし、傍らにいるふたりも同意するように大きくうなずいている。

たとえ忍に頬を染め、仕事に直接関係のない理由で無理矢理この場に押し掛けているとしても、彼女たちもまた、庄野に負けないくらいモデルハウス建設には力を尽くしていた。

誰もが完成とオープンを心待ちにしているのだ。

彩実は胸が熱くなるのを感じた。

とにかくあと三カ月、オープンの日まで、頑張ろう。

彩実がしんみりとしながらそう誓ったとき。

「それで、あの。小関さんは……恋人は、いるんですか?」

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