冷徹御曹司のお気に召すまま~旦那様は本当はいつだって若奥様を甘やかしたい~
ふたりだけでなく、忍目当てに集まった女の子たちだってモデルハウスの話をするときの目は輝いていた。

そう、誰もが今回の仕事を楽しみ、プライドを持ってあたっているのだ。

だからこそ、彩実は思うのだ。

「なにがあっても、小関家具をモデルハウスに使わなきゃ」

タクシーの後部座席から流れる景色を眺めていた彩実は、膝の上に置いていた両手をぐっと握りしめた。

「でも、大丈夫かな」

忍と庄野が飲みに行くのを知った社内の女の子たちが、忍目当てに押しかけなければいいけどと考えながら、くすりと笑った。

そしてすぐ、笑ってる場合ではないと、一気に気持ちは落ちていく。

彩実が向かっているのは白石ホテルだ。

お見合いで五日前に来たときは、面倒ながらも綺麗な振袖を着せてもらい、おいしい食事ができるとあって、多少わくわくする気持ちもあったが、今の彩実にはそんな浮ついた気持ちはひとかけらもない。

あの日、彩実の両親と諒太の両親がふたりの結婚を勝手に決めてからというもの、彩実はずっと、どうにかして破談にできないかと考えていた。

もともと今の環境に執着しているわけでもなく、どちらかといえばフランスで暮らしたいと考えていたのだ。

計画よりはかなり早いが、これを機会にすっぱりと会社を退職してフランスに移住してもいいと、ひそかに思っていたのだが。

そんな彩実の考えは、賢一にはお見通しだった。

見合いの翌朝、賢一は出勤前の彩実を部屋に呼びつけると、開口一番、圧の強い口調できっぱりと言い切った。

『もしも白石家との縁談を断れば、お前の希望で一度は承知したが、小関家具をモデルハウスに使うことは今回だけでなく、今後一切禁止する』

彩実がどれほどの熱意を持ってその件を賢一に願い出たのかを知っていての言葉に、彩実は唇をかみしめた。

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