冷徹御曹司のお気に召すまま~旦那様は本当はいつだって若奥様を甘やかしたい~
如月家の中でも、そして如月ハウスの中でも、賢一の言葉はなによりも優先される。

そんな賢一がもしも小関家具とのコラボを反対したら、その瞬間にこれまでのチーム全員の努力がすべて無駄になってしまう。

彩実とともに何度も小関家具の社長をはじめ、職人たちに企画を説明し、頭を下げた同僚たち。

そしてメンバーたち全員が、世間で注目を浴びるに違いない計画にわくわくし、普段以上の力を発揮してくれたのだ。

その努力を思い返すと、自分の感情だけで簡単に見合いを断ることはできなかった。

もしも見合いを本気で断っても賢一がそれを許さなければ、すぐにでも飛行機に飛び乗ってフランスに逃げだそうと思っていたが、そんなことできるわけがない。

それこそ同僚たちを裏切ることになるのだから。

結局、彩実には諒太との結婚を受け入れる以外の選択肢はなかった。

彩実は次第に暮れていく街並みを眺めながら、ホテルがもっと遠いところにあればよかったのにと思いながら、姿勢を正して座り直し、一度深呼吸した。

大通りの向こうに白石ホテルが見えてきた。

それと同時に、見合いを嫌がり不機嫌な顔と態度で彩実を拒み続けた諒太を思い出した。

決して彩実と折り合おうとせず、距離を取られたまま見合いは終了したが、ふたりの婚約が半ば強制的に決められた。

嬉々とした声で順子からそのことを伝えられたときの諒太の顔は見ものだった。

一瞬あっけにとられ、言葉を失っていたが、次第に湧きあがる怒りに顔を真っ赤に染め上げた。

諒太は順子につかつかと詰め寄り怒りの声をあげようとしたが、諒太の父であり白石ホテルの社長である伸之がそれをたしなめ、止めた。

『もう、決まったことだ。それに、俺の順子が悲しむようなことはするんじゃない』

社長としての威厳ある言葉に、諒太もぐっと言葉を詰まらせ、口を閉じた。

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