冷徹御曹司のお気に召すまま~旦那様は本当はいつだって若奥様を甘やかしたい~
現在ほど日本人にワインを楽しむ習慣がなかった当時、ワインの販路の拡大を模索していたマリュス家にとっては渡りに船。

賢一の顔を立てるという建前のもと吾郎と菜緒美の結婚を許し、そして政界の要人との縁を掴んだのだ。

その後どういうルートや方法で日本にワインを売り込んだのかまでは彩実は知らないが、それ以降、彩実のフランスの親戚たちはワイン販売でそれまで以上の富を築き、今では世界的な有名な雑誌で年に一度発表される長者番付で上位に入るほどの成功者となった。

そうはいっても、実際の暮らしの中に億万長者の雰囲気はまるでなく、葡萄とワインを愛する朗らかなおじさまとおばさまたちだ。

年に一度か二度フランスを訪ねる彩実や麻実子と直也を、いつも快く迎えてくれる。

彩実は再びタブレットに視線を落とし、指さした。

「えっと、ここに書かれている吾郎と菜緒美の間に生まれたのが私の母麻実子です。見た目はフランスの血が感じられるんですが日本で生まれて日本で育った大和撫子だと本人は言ってます」

彩実はタブレットを飯島に返しながら、ふふっと笑った。

吾郎と菜緒美は日本で結婚した後、麻実子が高校を卒業するまでは日本で暮らしていた。

相変わらず自由な吾郎は国内外問わず放浪しながら絵を描いて生計を立てていたが、その後我慢できず麻実子ひとりを日本に残し夫婦そろってフランスに飛んだ。

「結婚式で、みんなに会える」

それだけで結婚式を楽しめるほど諒太との結婚の見通しは甘くないが、とりあえずそれを楽しみに準備を進めようと、彩実は乾いた声で小さく笑った。

すると、飯島がそれまでにも増して興味深げな視線を彩実に向けた。

それも、全身を上から下まで熱心に。

「あ、あの、どうかしましたか?」

どこか楽しそうな飯島の表情に困惑した彩実は、じりじりと後ずさる。

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