冷徹御曹司のお気に召すまま~旦那様は本当はいつだって若奥様を甘やかしたい~
「あ、すみません。ただ、ひと目見たときからスタイルがいいなと思ってたんです。手足は長いし小顔で腰の位置も高くて羨ましい。髪が栗色で瞳が茶色がかっていますけど、今どき毛染めやカラコンでそんな女の子は多いですしね。でもまさか、そうなんですね、フランスの血が入ってるんですね」

彩実をまじまじと見つめ、飯島は感心するように言葉を続ける。

たしかに彩実は手足が長く、すらりとしているが、身長は百五十八センチとそれほど高くない。

むしろ飯島のほうが彩実よりも十センチ近く高いように見える。

彩実からすれば、逆に彼女が羨ましいのだが。

彼女は彩実をあらゆる方向から眺め、何度もうなずいている。

彩実は訳が分からず立ち尽くし、思わず諒太に視線を向けた。

諒太も飯島の様子に戸惑っているようで、絶えず浮かべていた厳しい表情を消し、彩実に首をひねって見せた。

切れ長で大きな目が一瞬優しく微笑んだように見え、彩実の胸がざわめいた。

睨まれるか面倒くさそうな顔を向けられるばかりでそれに慣れたつもりでいたが、やはり穏やかな表情を見るとホッとする。

諒太の本来の姿は今見せた表情のように優しく思いやりのある人なのかもしれない。

初めて会った日の諒太は、たしかに優しかった……。

三年ほど前の諒太をふと思い出し、彩実は当時の面影を探すように、諒太を見つめた。

そのまましばらくの間諒太から目を離せずにいると、それに気づいた諒太の表情はこわばり、一瞬で冷たいものに変わった。

「なんだ?」

諒太の低い声が、彩実を再び突き放す。

「あ……あ、いえ、なんでもないんです」

ピクリと体を震わせた彩実は、慌てて答える。

さっきの優しい表情は見間違いだったに違いない。

もしくは彩実の願望が生み出した幻だ。

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