冷徹御曹司のお気に召すまま~旦那様は本当はいつだって若奥様を甘やかしたい~
やはりこの結婚に期待してはいけないと、改めて気持ちを引き締めていると、彩実と諒太のやり取りに気づいていないのか、飯島が満面に笑みを浮かべ、弾む声をあげた。

「如月様は色白だし、目は大きくてそれこそフランス人形みたいに可愛らしくて……。私、頑張ります」

「……え? なにを?」

飯島の言葉が理解できず、彩実は聞き返した。

「精いっぱい力を尽くして、如月様を極上の花嫁に仕上げてみせます。さ、今から衣装合わせですよ。存分に試着をして、最高に似合うドレスを選びましょう」

彩実はそうだったと思い出した。

今日白石ホテルに来た一番の目的は衣装合わせだった。

「サロンにおすすめの衣装をすべて用意しましたので、今から向かいましょう」

飯島は彩実の背を軽く押し出すと、彼女に気おされ気味の諒太に向かって大きな笑みを浮かべた。

「副社長もこんな綺麗な女性と結婚できるなんて幸せ者ですね。スマホの充電は大丈夫ですか? 新婦様のドレス姿の写真をじゃんじゃん撮ってくださいね」

「そ、その必要はないから……」

まさか諒太が自分の衣装に興味があるとも思えず、写真など撮るわけもないと、彩実は慌てて飯島を止めた。

「あ、でも副社長。もしかして、衣装は特別にフルオーダーするつもりでしたか? それなら大至急、職人たちを招集しますけど……お式まであと三カ月ですからねー。お色直しの回数にもよりますが、今からだと日程的にかなり厳しいですよ」

ウキウキした表情から一変、大切なことを思い出したように、飯島が不安げに諒太に顔を向けた。

ただでさえ落ち着かない状況にいた彩実は、「フルオーダー?」と戸惑い、いやいやすでにある既製品で十分だと焦った。

けれど、もしかしたら如月家の娘として衣装のレンタルなど賢一が許さないかもしれない。

そう思った瞬間、彩実は苦笑いを浮かべた。

< 49 / 157 >

この作品をシェア

pagetop