冷徹御曹司のお気に召すまま～旦那様は本当はいつだって若奥様を甘やかしたい～

如月ハウス工業は、今年創業六十周年を迎えるハウスメーカーで、業界一、二を争う売り上げを誇っている。

戸建住宅建設をはじめ、リフォーム関連事業、賃貸住宅建設、都市開発、リゾート関連事業など多岐にわたって事業を展開している。

多くのグループ会社を持ち、その売り上げは昨年二兆円を超え、国内の経済を大きく動かす巨大企業だ。

創業者である如月賢一は今年八十四歳。

八十歳を迎えた四年前に、社長の座を亡き娘・佑香の婿だった直也に譲り、自身は会長となった。

とはいえ社内での発言力は直也以上で、今もその力を社内外に発揮し続けている。

直也はもともと如月ハウスの社員で、婿養子として佑香と結婚した。

佑香亡き今、直也には賢一に意見できるような力もバックアップしてくれる有力者もいない。

社長というのは名ばかりで、直也と佑香の息子である咲也が社長に就くまでのつなぎとしてしか見られていない。

直也もそれは承知していて、社長として必要最低限の業務をこなしているだけだ。

直也が佑香と結婚したのは、当時賢一の秘書をしていた直也を佑香が気に入り、娘の頼みに応えるように、賢一が直也に佑香との結婚を命じたからだ。

結婚した翌年に双子の咲也と晴香が生まれたが、それを境にふたりの仲は次第に冷え切っていった。

そして、双子が一歳になってすぐ、佑香は浮気相手と旅行に出かけ、交通事故で亡くなった。

賢一の悲しみは相当なものだったが、遺された咲也を社長にするまではと気持ちを鼓舞し、長く社長として力を尽くしてきた。

現在二十九歳の咲也は如月家の後継者として幼少期から期待され、現在は如月ハウスの経営企画室で賢一から直接仕事を学びつつ、社長に就任する日に備えている。

本人もそれを望み、経営者としての才能とセンスが垣間見られることも多いので、賢一をはじめ上層部の面々に会社の将来への不安はない。

そして、咲也の双子の妹の晴香は、大学を卒業後如月ハウス工業の系列企業で一時働いていたが続かず、今は如月家本宅の離れで自由気ままに暮らしている。