冷徹御曹司のお気に召すまま~旦那様は本当はいつだって若奥様を甘やかしたい~
彩実は気持ちを切り替えようと、手元にあるワインをほんの少し口に運んだ。

濃厚な味に、気持ちが和らいでいく。

今日提供されているワインは彩実の親戚が醸造したワインだ。

中には当たり年だと言われる高価なワインが大量に含まれていて、送られてきたワインのラベルに表記されているヴィンテージを確認するワインソムリエたちはかなり盛り上がったらしい。

「飲みすぎるなよ。昨日まで仕事が忙しくてあまり寝てないだろう? また気分が悪くなるぞ」

三橋と話していた諒太が、グラスを手にした彩実に視線を向けた。

「ひと口飲んだだけなので、大丈夫です。これは私の生まれ年のワインらしいんですけど、当たり年でおいしいですよ」

彩実は諒太の手元に置かれているワインを視線で勧めた。

すると、諒太はグラスを手に取り、一気に飲み干した。

「……当たり年にこだわらないが、これはうまいな。彩実が生まれたとき、お祝いの意味も込めてワインを仕込んだんだろうな」

「あ……はい。まさにその通りです。この年のワインは私のためのワインだからと言って例年の半分しか出荷しなかったそうです」

彩実は祖母や祖父たちをはじめとする親戚たちの心情をあっさり察した諒太に驚いたが、それが思いのほかうれしい。

「そうか。今日のために残しておいてくれたんだな。あ、それはそれとして。彩実が大切にされているのはわかるが、あのプレゼントはちゃんと断れよ。絶対にもらうんじゃないぞ」

プライベートジェットのことだろう。

彩実がちゃんと断ったのかどうか、やけに気にしているが、それほど維持するのは大変なのだろうか。

親戚との間でまだ話はついていないが、諒太の反対を押し切ってまでもらうつもりはない。

「わかりました。ちゃんと断っておきます」

「……ん」

あっさり答えた彩実を探るように見つめ、諒太はうなずいた。

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