冷徹御曹司のお気に召すまま~旦那様は本当はいつだって若奥様を甘やかしたい~
「そういえば今日ふるまわれているワインは彩実さんの親戚が作ったものなんですね。大量に送ってこられて大変だったと宴会部が言っていたんですよ」

「え……? あ、それは、ごめんなさい」

「それに、貴重なワインが多くてセキュリティの面も心配で、早くこの披露宴が終わればいいと……あ、終わるなんて禁句ですね。申しわけありません」

三橋は明るくそう言って謝るが、声音に意地の悪さを感じ、彩実は黙り込んだ。

諒太や飯島は、滅多に手にすることのできない貴重なワインが送られてきて、宴会部の従業員たちは小躍りするほど喜んだと言っていた。

今も会場内を見回せば、貴重なワインを手にしてテンションが上がるのか誇らしげにテーブルを回る何人もの従業員の姿が見える。

その様子は決して困っているようには見えない。

それに、フランスから大挙してやってきた有名ワイナリー御一行様にわざわざ挨拶をしに行くワインソムリエたち。

その紅潮した表情からは、ワイン生産者をリスペクトする純粋な思いが垣間見え、彩実のざわついた感情もすっと落ち着いた。

「それにしても、今日の主役は俺たちじゃなく、彩実の親戚たちだな」

諒太が面白がるようにくくっと笑う。

見れば、フランスからの招待客のテーブルが集まる周辺に、何故か政財界の重鎮たちが列をなして挨拶の順番を待っている。

その整理をしているのが如月ハウスの秘書課の男性数人と咲也……それに。

「え、姉さん?」

彩実は大きな声をあげ、思わず立ち上がった。

「どうして?」

見れば、晴香がフランスの親戚たちのテーブルの傍らに立ち、挨拶を求めて並ぶ人たちを整理していた。

光沢のあるレモンイエローの生地をたっぷりと使ったワンピースがスラリとした晴香によく似合っている。

麻実子が強引に晴香を馴染みのハイブランドのお店に連れて行き仕立てたというドレス。

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