冷徹御曹司のお気に召すまま~旦那様は本当はいつだって若奥様を甘やかしたい~
『あのドレスを着た晴香ちゃんを見たら、招待客の独身男性はみなドキドキしちゃうわよ』

生来の朗らかな声でそう断言した麻実子の言葉は嘘でなかったと、彩実も納得する。

彩実よりも十センチ以上背が高く、なにを着てもよく似合い、奥二重の大きな目はいつもうるんでいて印象的。

腰まである真っすぐな黒髪はいつも艶やかで、おろしているだけだというのに周囲からの注目を浴びるのだ。

「姉さんが、にこにこ話してる……」

今日、晴香が結婚式や披露宴に参列してくれるのかどうかさえ不安に思っていた彩実だが、政財界のお偉いさまたちを相手に堂々と指示をしている晴香を見て、ふと懐かしさを覚えた。

子どもの頃の晴香はああだった。

同じ双子なのに男子だということでなにかと優先される咲也と違い、とくに期待されることのなかった晴香は、まだ小さかった彩実を唯一の味方だとばかりにとことん可愛がっていた。

おやつに彩実が好きなケーキが出れば、自分は少しだけ食べて彩実に分けたり、当時から賢一にそっけなくされて泣いていた彩実の手を握って一緒に寝たり。

実の母親が亡くなったことを子どもなりに理解し、その悲しみを忘れようとしていたのかもしれないが、とにかく彩実を甘やかしかわいがっていた。

そして、大人にもへつらうことなくはきはきと意見を口にする頼りになる姉。

彩実が見上げたさきにある晴香のまっすぐな瞳は、彼女の憧れでもあった。

「姉さん」

テーブル越しに思わず身を乗り出した彩実を、諒太が慌てて立ち上がり抱きとめた。

その勢いのせいで、諒太の傍らに膝をついていた三橋が諒太を避けるように立ち上がった。

「おい。テーブルを倒すつもりか」

レースの花のモチーフがちりばめられた白いドレスが、倒れたグラスの水で濡れた。

「ごめんなさい。ああ、ドレスが濡れちゃった……」

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