隠れイケメンの王子様に恋しました

兄と弟

時間が差し迫ってるのに気付いて、離れ難いのをなんとか押し留めて二人でマンションを出ると、そこには逃さないとでもいうように実家の車、黒塗りのブルースターが横付けされていた。

「立花さんこんにちは」

なの葉が笑顔で挨拶すれば待っていた立花さんは笑顔で会釈し応えてくれる。
立花さんは穏やかで優しい。なの葉とも何度か会ってるからすっかり顔馴染みだ。

彼は御影家専属の運転手で、俺が本社に出勤し出す頃あまりに渋る俺を見かねて父親が迎えに寄越したのが切っ掛けで毎回迎えに来てくれるようになった。
俺がバイクしか持ってないのもあるが、ここは駅に行くにも20分位かかるから有難いとは思うけど大袈裟な黒塗りで来ないでとちょっと思ってたりする。

「じゃあ雪都、私も行くね。お仕事頑張ってね。いってらっしゃい」

一人で行こうとして繋いだ手を離そうとするから、ぎゅっと握って引き留めた。

「ちょっと待って。駅まで行くんだろ?送るから乗って」

「え?でも雪都遅れちゃうよ?」

「車なら直ぐだから大丈夫。立花さんいいよね?」

なの葉を掴んだまま振り向けば立花さんは「もちろんでございます」とドアを開けてくれるから、でも…と遠慮するなの葉を車に乗せた。

「すいません立花さん」

「いいんですよ、まだ時間はありますので」

穏やかな立花さんに言われてホッとしたなの葉がこちらを向けば、ポッと頬を赤らめてにこりと笑う。

自分がもの凄く甘い顔をしてるのは気付いてない(なの葉談)
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